感動猫動画は悪質である

2023年12月1日

「感動猫動画」というサイトがある。YouTubeが中心か、SNSに広告のようにして配信しているのか、よく知らないが、猫の可愛い動画が集められているようだ。その中に、可愛い猫が、突如訪れた撮影者に、やたらなつくという動画も多数ある。それを見る人は、猫に好意をもっていれば、「感動」するかもしれない。
 
だが、一部は、間違いなくヤラセである。感動する余地はない。
 
それだけなら、別に私も放っておくつもりでいた。ネットには嘘が氾濫している。一つひとつ虚偽を咎めていては身がもたない。だが、ボランティアたちにより世話をされている猫たちを、一律「野良猫」としか表記しない点は、悪質であるとずっと思っていた。あるいは、本当に「地域猫」というものを知らない、無知の故に、無邪気に「野良猫」と貫いているのだろうか。コメントには、「地域猫ですね」という声も多数あり、私も書きこんだことがあるが、一切無視して、「野良猫」と呼ぶのである。
 
おそらく、「野良猫」を、こんなに自分は手懐けているのだ、ということをアピールしたいのだろうと思う。事実を知らないコメントも、そうしたものが少なくない。たぶん撮影者は気持ちがよいことだろう。だから「野良猫」を貫くのだろう。それが「地域猫」であれば、魅力が半減するからだ。地域猫は、ボランティアたちの手により餌を与えられ、住まいの世話を受けている。また、公園であれば、公園を訪れる人たちにも可愛がってもらえることがある。長くそこで生きていれば、ある程度人間にも慣れる。撮影者が来て、撫でられるというのも、別段珍しいことではない。だが、「野良猫」であれば、人に近づくはずがないという思い込みがあるから、それが撮影者に走ってくるような動画は、感動を呼ぶ可能性がある。
 
地域猫は、TNRという語で説明されるが、捕獲して不妊手術を施して、耳に切り込みを入れるようにする。野良猫として殺処分(なんと冷たい言葉か)されるのは、圧倒的に子猫が多い。悲しいことではあるが、子猫をつくらないことが、殺される猫を減らす効果が一番あるのだ。
 
その是非について、いま考えようとしているのではない。問題は、広告料をその「感動」で得ている、「感動猫動画」である。
 
つまり、その動画の一部は確実に、「野良猫」と偽って演じているのである。耳をカットしたさくら猫をも、「野良猫」と繰り返し繰り返し表記しているからである。
 
こうしたヤラセも発見した。ある公園で「野良猫」が現れて自分にべたべた懐いた、というストーリーなのだが、私は知っている。そこは、私が毎週訪ねるところだからである。福岡近辺の場所がよく映り込んでいるので、拠点はこちらであるかもしれない。その公園は地域猫を匿っており、一匹一匹名前がつけられ、朝晩ボランティアにより動向が管理されている。ところが「感動猫動画」では、その場所には明らかにいない猫が映っているのである。見たこともない猫である。その地域猫の紹介のサイトにも、もちろん存在しない。しかもさくら耳でもないこともある。明らかにどこからか、撮影者が連れてきた猫である。自分が飼っている猫かもしれない。動画が知らせる内容は、ヤラセである。そこにいた「野良猫」がこんなに撮影者に寄ってくる、というのは自作自演の嘘である。
 
しかし、こうした動画には嘘がつきものであるとするなら、開き直られたらあまり責めるわけにはゆかないだろう。それを信じて騙されている動画視聴者は、一種の詐欺に遭っているのだとしても、実質被害はないのだから、撮影者にも言い分はあるのだろう。
 
だが、実は悪質なものがある。公園に子猫が現れた。これも撮影者にひどく慣れている。同じその地域猫のいる公園であり、その場所にそのような猫がいないことは、上記の例と変わらない。さくら耳でもない。もちろん「野良猫」と呼んでいる。それでも、これは悪質なのである。
 
地域猫に子猫(とは限らない)が、言葉は悪いが棄てられることがある。私もその現場に遭遇したことがある。発見すると、ボランティアは、仲間に連絡をとった上で、その子猫を捕獲する。そして、ボランティアの家で育てることとなる。子猫を野生に置いておくことは危険だからだ。
 
地域猫は、命を守るという目的で保護している。ご近所さんの理解もお願いするわけだが、公園などで猫たちを生かしている。中には、人間に虐待される場合もある。殺された猫もいる。怪我をさせられたり、塗料を塗られたり、ヒゲを切られたりした猫もいる。すべて私の直接知る猫たちの話であるから、どうか信頼して戴きたい。もしお疑いの方は、ボランティア団体に確認してみると、お分かりになるだろうと思う。こうして虐待を受けた猫はメンタルの面でも保護しなければならない。それで、ボランティアの家に一時保護することになる。中には野生に返すのが無理で、ずっと家猫となっているものもいる。野生が慣れている猫は治療が済み次第元に返されるが、子猫は当分無理である。
 
だが、「感動猫動画」は、公園に「野良猫」としての子猫が放置されている、という映像を流しているのだ。これを、他地域の保護猫関係者が見たらどう目に映るだろうか。あの公園の地域猫ボランティアは、子猫を放置している、と見えることになる。つまり、地域猫活動に濡れ衣を被せる映像なのである。
 
自分が、公園にいる可愛い野良猫の子猫にもすぐに好かれるのだ、という虚栄心を晴らすために、デマを流すだけなら、まだ当人の問題である。だが、朝も晩も命を守ろうとして、なんの収入も得られず、むしろ手出しばかりで活動しているボランティアたちを貶めるようなことを平気でやり、自分は広告収入を得るというのであれば、これは極めて悪質である。
 
こうした動画は、SNS上に勝手に入ってくるので、どうしても目に入る。先日は、その撮影者が、「野良猫」を手なずけている動画があった。もちろん地域猫である。だからある意味ではヤラセではない。だが、猫にも個性があり、一見さんには絶対に近寄らない猫もいる。何年も顔を見ておきながら、用心深い猫はいまだに私にも近づかない。かと思えば、誰でもウェルカムで近づいてくる猫もいる。その猫は、人懐っこいタイプの猫である。ともすれば、そうした猫は、虐待犯にも寄っていくものである。そうして、可哀想に、殺された猫もいたのだ。そこに映った猫は、近ごろ虐待された猫であった。塗料を塗られ、ヒゲを切られたのはその猫である。人懐っこいタイプである。そういう猫は、ひとつ間違うと虐待を受けてしまう。こうなると、私には、この撮影者がその虐待に関係している、ということを否定することはできなくなる。
 
地域猫は、ボランティアに餌をもらうため、一般客でも餌をくれたら近寄る場合があるのだ。もちろん、警戒してどうしても近づかない猫もいるが、そこは個性である。私も、いつも顔を見せて、長い時間をかけて信頼を受けるようになって、ようやく近づくことを許された猫が多い。餌を使えば、もっと簡単に猫は寄ってくるだろう。しかし、どうであれ彼らは「野良猫」ではない。看板に偽りあり、という程度ならば、そういう嘘はいつか露呈する、という具合に冷たく見ていることもできるが、何度も何度も、ヤラセが上がってくる上に、保護活動の信頼を失わせ、愚弄するようなものを、金儲けのために使っているということについては、激しく憤っている。「感動猫動画」は、一部は間違いなくそうした形で公開している。恐らく、私の知る「一部」だけがそうなのではないだろう、と推測するのが自然ではあるまいか。

※先ほど判明したことであるが、この撮影者(運営者)は、この猫たちが「地域猫」であることを知っている。「地域猫」というタイトルのついたカレンダーをもっているのである。つまり、「地域猫」であることを知りながら、「野良猫」としか呼んでいない。わざわざ「野良猫」と呼ぶことで、自分は野良猫に好かれる者だということを偽ろうとしているのである。悪質である。


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