ダイヤモンド

2023年6月24日

Eテレで週に一度放送される5分間のミニアニメ「かいじゅうステップ ワンダバダ」がなかなか可愛い。円谷プロが生みだした怪獣のチャイルドバージョンが、子どもたちの身に起こるような問題を乗り越えてゆく。失敗したり、少々わがままな子がいたりするが、赦しと和解が最後に待っているということが多い。子どもにもメッセージがはっきり分かるように制作されているため、大人から見れば先が分かっている展開であるように思われるかもしれないが、その解決の仕方は、案外大人でも予想がつかないことがある。子ども番組だと軽く見ることができないのだ。
 
今回は、「カネちゃんのダイヤモンド!」という巻であった。珍しく、セリフがしばらく全くない展開に驚いた。見ただけでその考えていることがちゃんと伝わる。見る者の心の中にセリフが浮かび上がってくるのだ。だからむしろぐいぐいと引き込まれた。
 
カネちゃん、これは子ども姿のカネゴンである(カネゴン自体子どもの変化したものなのだが)。ひとりじめしたいくらい好きなものってある?――そんなアナウンスが最初に投げかけられる。ある日、偶然、ダイヤモンドを見つける。顔の大きさくらいある、大きなカットダイヤモンドであった。元々カネゴンは硬貨などを食すが、ここでは、キラキラしたものが好き、ということが紹介されている。
 
キラキラ光るダイヤモンドをもって、カネちゃんは嬉しそうに持ち帰ろうとするが、その途中でお友だちに遭遇する。もしかすると友だちは、そのダイヤモンドをカネちゃんから奪おうとするかもしれない。頭の中で、友だちが恐い顔をして強奪する様子をカネちゃんは想像する。そのためダイヤを隠そうと抱え、友だちの前から逃げ去る。たくさん友だちはいるのだが、どこに逃げても誰かに出合い、その度にカネちゃんは冷や汗を流しながら逃避を繰り返す。
 
この間、セリフが全くない。スリリングな音楽だけがずっと流れる。最後、友だちが何人もいるところにふとしたことで飛ばされる形になり、ダイヤモンドが友だちの前に転がる。カネちゃんは、恐く歪んだ顔をした友だちがそのダイヤモンドを奪ってしまう様子を想像して、真っ青になる。
 
だが、友だちはニコニコして、落としたダイヤモンドを拾ってカネちゃんに渡す。
 
ダイヤに映った自分の顔を見て、カネちゃんは気づく。歪んだ恐い顔をしていたのは、お友だちではなく、自分自身だったことに。ここで初めてセリフらしいセリフが生まれる。「みんながダイヤをねらってたんじゃなくて、おいらがよくばりでわるいきもちになっちゃってたんだ」と。
 
そしてカネちゃんは、海に向かってそのダイヤモンドを投げ捨てる。友だちに「いいの?」と訊かれるが、カネちゃんは迷わない。「よくばりなきもちに、バイバイ!」と笑顔である。
 
「キラキラより、ニコニコ!」との言葉で、お話は閉じられる。
 
自分の顔を映し出すものとして、聖書はダイヤモンドである。もちろん、海に捨てなくてもよいのだけれども。



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