リスボン地震

2020年10月31日

ハロウィンがアメリカ由来のように有名になってしまいましたが、今年2020年は新型コロナウィルスのために密なる騒ぎができないでありましょうから、これを機にブームも下降していくのかもしれません。むしろ「宗教改革記念日」として知られたらと思いますが、どうしてこの日が宗教改革記念日になるのかというと、ハロウィンの翌日の「万聖節」の人手を考えてルターが質問状を貼りだしたという伝説があるからでしょう。これは近年は「諸聖人の日」と言われ、どこか日本の盂蘭盆会とも比較可能な習慣だと言われています。だから幽霊のようなものとつながりやすかったのでしょう。これはカトリックの祝日の一つですが、ハロウィンについては、カトリックの国だから騒いでいる、というように決まっておらず、地域や国により様々だそうです。
 
諸聖人の日が11月1日。1755年のこの日、ポルトガルの首都リスボンでは、世界の終わりのような出来事が起こっていました。以下、リスボン地震については史料が非常に少ないために、限られた情報から取り上げるしかありませんでしたが、より優れた研究や資料をご存じの方は、お知らせ下されば幸いです。
 
この地震の推定マグニチュードは、低く見積もっても8.5などと言われています。当時世界最大の国のひとつポルトガルの首都リスボンを襲った揺れは5分前後あったと言われ、朝の街を火災が襲い、巨大な津波も加わって首都は壊滅しました。人口の三分の一を失ったとも言われ、建物に関しては8〜9割が崩壊したとも見られています。
 
精神的にも、この日が「万聖節」であったことが、また大きな影響を及ぼすことになりました。あのハロウィンは、この前夜のお祭りです。日本の盂蘭盆会に匹敵するような意味があり、「諸聖人の日」とも呼ばれます。この祝祭の時に、世の終わりのような災害が、カトリックの大国の首都を潰したのです。
 
当然というか、これを「神罰」だと評する声が起こりました。世界は神が最善に仕組むものだとするライプニッツの思想に最初惹かれていたヴォルテールは、この地震により、その思想を徹底的に糾弾するための喜劇『カンディード』を著し、『リスボンの災害についての詩』を詠みました(この詩は近年本邦諸訳として、光文社古典新訳文庫から出版されています)。
 
ルネサンス期かにすでに権威に揺らぎが始まっていたキリスト教会でしたが、このリスボン地震は、あまりに衝撃的で、教会への信頼も失せてしまうほどでした。中世のペストでも教会が頼りないことが取り沙汰されていましたが、この地震は祝祭日だっただけに、見限られるに十分な災害となりました。むしろ、強権を使いながらも、復興のために奔走した世俗の政治のもたらした治安と再建が、信用の柱となったようです。
 
哲学の世界も大きな影響を受け、先に挙げたような神の摂理についての思想が様変わりしました。ニーチェが「神は死んだ」と19世紀末に書いた言葉が世界に拡がっていくと、さらに観念的なものが批判されていくようになっていきました。
 
いまも震災という出来事を抱える私たちの国は、さらに首都圏への地震の可能性も小さくないことを詩っています。ペストではありませんが、新型コロナウィルス感染症が世界を大きく変えました。教会の対応については、ペストやスペイン風邪について少しずつ報告されるようになっていますが、過去の歴史を知ることから学ぶことは、多々あるはずです。リスボン地震については、もっと多くの史料を、知識ある方が提供してくださることを願っています。



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