政治批判のために

2020年10月15日

政治の問題はいろいろな立場の方がいるので、単純にどちらかの側だけを良しとすることはしにくいものです。違う立場に賛同する人が、けんか腰で向かってくると、落ち着いた「理屈」を考えてもらえなくなる、というのもあります。そこで特定の立場から語ることはできるだけ控えようと考えています。そのようなあまい考えが卑怯だとも指摘されるけれども、それが卑怯ならば卑怯でもいい、と覚悟しつつ。
 
例の、日本学術会議の推薦者を首相が任命拒否した話。今から36年前、アイドルMがエッセイ本を発売します、と告知したとき、「まだ私も読んでないけど」と発言して、司会のKが、読んでないのかと突っ込むと、逆ギレしたという、有名な話を思い出しました。
 
自分の任命権を法的に問題なく用いて6人を拒否したけれど、その人たちのことは知らなかったと平然と言い切った首相。言うのを憚る気配もありませんでした。慣例を破った理由は「総合的・俯瞰的」に考えたもので、どう考えてもそれは適切だろうと逆ギレしているように見えました。「総合的・俯瞰的」とは、何の根拠も理由も示さず、好きなように勝手に決めましたよ、のようにしか聞こえないのですが、私の感覚がおかしいでしょうか。
 
新首相が誕生して、お手並み拝見という時期。アメリカだと大統領就任から一年間は目を瞑るという慣行があるそうですが、今回の有様には、国民の半数(厳密に数の二分の一という意味ではなく、2つに意見が分かれるうちの一つという意味で捉えてください)が開いた口がふさがらないものとなったのではないでしょうか。あるいは、怒りのために口が開いていく、というべきでしょうか。
 
学問の自由という言葉も出て来ましたが、このような持ちかけ方は、論点をずらすことにつながりかねず、あまり批判する側としては得策ではなかったかもしれません。学問の自由の定義次第で理由づけが可能である以上、それを守っている、と押し切られたらそれまでとなるからです。
 
新聞も、政府寄りのものは、首相の措置は当然だ、と激しく叫んでいますので、それを購読している人は、その意見を尤もだとすることになるでしょうか。とくに、お金が絡むと錯覚も起こりやすくなります。政府から金をもらっているのだから政府の批判をしてはならない。税金から報酬をもらっていながら政府を批判するのはもってのほかだ。こうした声もありました。
 
残念ながら、これは誤りです。現政府を好ましく思っていない国民の半分(先の意味)の税金もその中に半分あるのであり、政府を批判する役割を果たす科学者が声を発することを禁ずる措置を肯定することは、理に適わないことになるからです。
 
そして、誰かが責められると、その逆の考え方を持ち出してくる人が現れるのも世の常です。いじめの被害者の味方をするのならばそれはよいのでしょうが、今度はその日本学術会議の組織の揚げ足を取ろうとする動きも出て来ます。そうして、抑えこむことを正当化しようとするのですが、これもまた、話をずらすためのありがちなレトリックですから、気をつけなければなりません。
 
ごく一部の反政府勢力を悪として処罰するためだとする治安維持法が、何を導いたか、歴史を調べるまでもなく、危険な流れを作ることは、「どう見ても明らか」でしょう。
 
感情的にならず、また、相手の思うつぼになるかもしれないような、他の論点を持ち出すことに慎重になり、国会議員の皆さんは、治安維持法をもたらさないように、大切な仕事をして戴きたいと願います。せっかくこの、新型コロナウイルス感染症に襲われた中で、強権を発動することが諸外国に比していくらか抑えられた中で、しかし言論や学問のほうが、よく分からない理由で圧されていくきっかけとなるかもしれない事態が起こっているとすると、蛇のように賢く対処していくことが求められるからです。
 
他方、よく「教会批判をしてはならない」と考えている人もいます。これはまた難しい問題です。「批判」というのが「非難」ではない、適切なその語義に適うものであるという前提で用いられているにしても、全くしてはならないのも問題ですが、批判を始めるとどんどんおかしくなっていくことも、何度も見てきた身としては、安易に肯定はできないのです。
 
奇妙なまとめのようにしかなりませんが、これを「事柄」として解決しようと議論するのではなくて、やはり教会は「愛」の原理しかないのだろうというのが、私のぼんやりとした考えです。教会は、愛と祈りとそこから生まれる信頼によってこそ、進んでいくことができるのであって、また、教会の中心にキリストがいるかどうか、だけを気をつけていることが、常に必要だとしか考えられないのです。自分がどこにいるのか、それを見失ったとき、人も教会も、そしてまた政治も、おかしくなっていくと思われるからです。



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