説教が生まれるひとつの過程

2020年9月5日

教案誌により、聖書箇所を決めているという教会があります。その是非を語るつもりはありません。考えるのは、聖書箇所がこのように他者から与えられた場合に、説教者は説教をどのように組み立てるのだろうか、という問題です。
 
ある教会では、牧師が祈りつつ与えられた聖書の言葉を以て語ったほうがよい、と言います。まるでプログラムのように他人や組織から与えられた聖書箇所から語っても命がないのではないか、という考えです。理解できます。
 
しかしまた、その牧師が求めた聖書箇所だと、偏りが見られるかもしれません。得意なところ、心に思い描く事柄や方面は繰り返されるが、都合の悪いところや思いつかないところには全く触れることがない危険性があるのではないか、というわけです。これも理解できます。
 
料理をつくる人の好みだけで毎日料理するのもいいが、給食のようにバランスを考慮されたプログラムも意味があるのであって、一概にどちらがどうだと決めることは難しいでしょう。
 
しかしとにかく、いまここでは聖書箇所が決められたものに従う、という前提で考えていきます。しかも、一定の教案誌に則るというケースをモデルとすることにします。
 
そこには教案が、本部の立派な先生により提示されていますので、いわば初心者の説教者も、それを大いに参考にしながら語ることができます。これは良い点です。しかし、自分が示されること、自分の問題として語ることが大切だと考える多くの場合には、その教案の通りには話さないのが普通です。ただ、聖書箇所だけは尊重するのです。また、できるかぎりテーマもあまり外れないように配慮することが多いでしょう。
 
ところがこれが、説教を組み立てる者としては、不安定なものとなりがちです。自ら選んだのではない、神の言葉。しかしそこから、他人の褌で相撲を取るような真似はしたくない。このバランスをどのように形にしていくか、けっこう難しいわけです。
 
そこで、あるかもしれない形をひとつ示すと、こうです。聖書箇所が与えられた。それを読んでいると、ふだん自分が考えている「あのこと」が重なってきた。そうだ、自分が考えていた「あのこと」を語ろう。そのために、今回の聖書箇所は使うことができると思う。この聖書箇所を根拠とすれば、説得力も増すだろう。自分のあの考えを、この聖書の言葉を以て語ればいい。
 
私は自分なりに、この課題に挑戦しています。だから、この課題の困難さもある程度分かりますが、私はそのようにはしません。それは、結果として自分の考えていることを語るということがない、という意味ではありません。ただ、「あのこと」を語るために、その聖書の言葉を「利用する」ような態度だけは取るまい、と戒めているということです。
 
ではどうするとよいのか。個人差もあるでしょうが、私は、与えられた聖書箇所を、数日間とにかく睨みます。そして、時が熟すのを待ちます。その聖書の文面から、神は自分に何を語ってくださるのか、それを待ちます。
 
先の例とどう違うのか、と問われそうですが、これは違います。決してネタ探しのような姿勢はとらないのです(ほかの誰かをネタ探しと揶揄しているのではありませんので、念のため)。何日も何日も、プリントアウトしたその聖書箇所と格闘します。すると、いままでその聖書箇所から漫然と、こういう意味なんだろうと捉えていたものとは違う、別のことが教えられるのです。いままでどうしてこんなことに気がつかなかったのだろう、と呆れるくらい、ある特定の言葉や表現が浮き上がって心に迫ってくるのです。また、他の聖書箇所とのネットワークが生まれてくることもあります。それまで自分が思いもよらなかったようなところとつながってくるのを覚えるとき、感動します。とにかく、今のいままで気づかなかった意味や世界が、立ち現れてくるという経験をします。
 
そうなると、あとは一定の時間さえあれば、書き綴ることができます。もちろん、その中途でいろいろ調べ物もするし、果たしてそのように言ってよいものかどうか、確認を怠りません。しかしともかく、聖書の言葉とにらめっこをしている中で、教えられ、気づかされるという経験をします。これが喜びです。
 
恐らく、デボーションに時間をかける方は、この言っていることをお分かりくださるだろうと思います。祈りのときに、聖書に耽溺するならば、こうしたことは多くの方が、「そんなこと当たり前じゃないの」と言わんばかりに経験されていることだろうと思うからです。
 
その祈りを、ひとつのメッセージとして形にしていく。説教を生み出すとは、そういう営みなのだ、とも思います。「教会」という場でシェアできるような、神からのメッセージを生み出す務めは、確かに大変ではあるのですが、実にうれしいものでもあるのです。



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