アスファルト

2018年9月23日

しかし、もはや隠しきれなくなったので、パピルスの籠を用意し、アスファルトとピッチで防水し、その中に男の子を入れ、ナイル河畔の葦の茂みの間に置いた。(出エジプト2:3)
 
ヘブライ人の子を殺せというエジプト王の命令が下った中で、ひとりの男の子が隠されます。この子は将来、イスラエルの民をエジプトから約束の地へと脱出させるリーダーとなった、モーセでした。
 
モーセの親は、葦のようなパピルスで籠に赤子を乗せて、ナイル川に流します。誰か拾って育ててくれないかと祈りつつ。しかし籠では舟になりませんから、アスファルトとピッチで防水をしたと記されています。
 
アスファルトと訳されている語は、粘土の綴りで母音が違うのですが、ここのほかには旧約聖書の創世記に登場しています。
 
☆創世記11:3 彼らは、「れんがを作り、それをよく焼こう」と話し合った。石の代わりにれんがを、しっくいの代わりにアスファルトを用いた。(バベルの塔の建設)
 
☆創世記14:10 シディムの谷には至るところに天然アスファルトの穴があった。ソドムとゴモラの王は逃げるとき、その穴に落ちた。残りの王は山へ逃れた。
 
古代ではこのアスファルトが天然のものとして産出し、利用していたことが分かります。石油の成分と考えてよいでしょうか。
 
他方ピッチは、「やに」や「樹脂」を指しているとも見られますが、旧約聖書には他に次の箇所に見られます。
 
☆イザヤ34:9 エドムの涸れ谷は変わってピッチとなり/その土は硫黄となる。その土地はピッチとなって燃え上がる。
 
旧約聖書続編には三つの用例があります。
 
☆アザルヤ1:23 彼らを火に投げ込んだ王の侍従たちは、ナフサとピッチと麻屑と木片とをくべて炉の火を燃やし続けた。
 
☆ベル1:27 そこで、ダニエルは、ピッチと油脂と毛髪とを取り、一緒に煮て、だんごを作り、竜の口に入れた。竜はそれを呑み込むやいなや体が裂けた。ダニエルは言った。「御覧ください。これが、あなたがたがあがめていたものです。」
 
☆エズラ(ラテン語)2:9 その地はピッチの沼、灰の山と化している。わたしは同じことを、わたしに聞き従わない者どもにするであろう。」これは全能の主の言葉。
 
こうして見てくると、建築材料として、現代とあまり変わらない材質のものが利用されていたことが分かります。
 
『聖書のかがく散歩』(堀内昭)によると、日本でも、4500年前の縄文時代のものとして、アスファルトの塊が見出されて居ます。有名な三内丸山遺跡では接着剤としてアスファルトが用いられていたことが明らかなのだそうです。いずれも、新潟から秋田、北海道といった、石油鉱床地帯で発見されています。「日本書紀」には、「燃える土」という記述があり、これがアスファルトであろうと考えられています。因みに同時にそこには「燃える水」という表現がありますが、これは石油のことでありましょう。
 
アスファルトとは、原油の成分の中でも最も重い部類のもので、たとえば石油がそこにあっても、軽い部分が揮発して、この重い部分が残った、と考えることができます。ギリシア語の「アスファルトス」に由来する語で、「ア」はno(t)の意味なので、「落ちない」という語源なのだそうです。
 
ピッチは、石油からもできますが、植物由来の樹脂であることもあり、木材を乾留(空気を遮断して熱分解すること)することにより、液体のタールと、液体ではありますが固体状のピッチが生じます。
 
これらは防水に優れ、古代から見出されると舟に使われました。これらがあったからこそ、舟が成り立ち、海運が起こったとも言えそうです。
 
昔の人の知恵には、いまの科学でも説明できる優れた知識が活かされていることが多いものですが、聖書の中にも、現代科学で説明できる多くの知恵が隠されています。上述の本もそうですが、聖書の食べ物や文化、動植物などについて、見ているだけで楽しい図鑑や事典があります。12月発行の新しい『聖書 聖書協会共同訳』は、最新の研究に基づく大胆な訳の変更もありますが、同時に生物や食物などについて、従来曖昧だったものを、現時点で分かっている限り、より明確に現代的な視点から訳出しているそうですので、その点から見るのも楽しいだろうかと思います。
 
こうして見てくると、私たちが思う以上に、文明は進んでいたという感慨が生じてきますが、他方、だからこそ、人間の心や精神においても、罪とか救いとかいう場面で、決して進歩しているわけでもなく、私たちも聖書の指摘の前に、全く同じように跪くしかないのだということが分かります。イエス・キリストは、きのうも今日も変わることがない、ということです。



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