『聖書の深読み』(兼子啓子/文芸社[文庫])

2017年9月9日


2017年9月の新刊で、タイトルがちょっと誘いました。NHKでも「深読み」とくれば、よい企画と解説をもたらしてくれている番組です。それで、手に入れてみました。帯には「聖書の成り立ちを史実と哲学の側面から切り込む!」と書かれています。
 
結果。これはとんでもない本でした。へんに紹介すると、却って宣伝になるかもしれないので細かくは語りませんが、読むべきものではありません。著者は哲学あるいは宗教学を学んだ人のようで、知識のある人だとは思います。聖書をよく学び、書いてあることや一部の学説を丁寧に読んだ形跡があります。しかし、これが小説であるならば、芸術の自由を私も認めるところなのですが、恰も聖書は深く読むとこのような真実なのである、といわんばかりに、あることないこと自分の想像あるいは妄想だけで、聖書に書かれていない背景的な心理や事件の成り立ちを飾りつけ、決めつけていくことの連続です。それも、多くのことを、聖書の記述に沿いながら、聖書が書いていないところを、自分の想像で必ず明確な理屈づけを繰り返していくので、聖書をよく知らない人は、どこが聖書でどこが著者の妄想であるのか、区別がつきません。その意味で非常に害悪を与えます。
 
たとえば、イエスの母マリアは、ザカリアとの間にイエスをもうけた、と、淡々と当たり前のように物語を描いて説明しています。これは、おそらくイギリスの作家マーク・ギブスの「聖家族の秘密」というセンセーショナルな本の主張を、そのまま利用して書いているものと思われます。一時騒がれて売れたそうですが、一部には、いまもそれを本当と思っている人もいないわけではないようです。この著者のように。かつてアメリカでダン・ブラウンの「ダ・ヴィンチ・コード」が、マグダラのマリアをイエスの結婚相手に描いて話題を蒔きましたが、こういう本もあったのですね。すみません、今回まで私は知りませんでした。
 
旧約聖書から新約聖書まで網羅しているようで、自分にとり面白くないところは全くあるいは殆ど触れず、想像の翼を羽ばたかせられるところは執拗に詳しく空想話でひきずっていく、それは、それなりに聖書をよく学んでいることを除けば、若い空想好きな少女の描くラノベのような感覚であるように見受けられます。
 
著者については、ネットで見るかぎり、全くの謎です。京都大学などの肩書きもどこまで本当なのかよく分かりません。「日本神学研究所」でキリスト教神学を学んだという経歴ですが、この研究所の名は、この著者の決まり切ったプロフィールの他では殆ど出てきません。哲学を交えたブログを公開していますが、あまり何を言っているのかよく分からないように見えました。
 
以前、あるキリスト教テーマの濃い小説があり、サスペンスとしてはそこそこ読ませるものだとは思いましたが、著者が謎めいているし、思想的になにかおかしいと思い調べて見ると、統一協会関係のものであるらしいと判明したことがありました。今回も何かあるような気がするのですが、何がご存じの方がいらしたら、教えてください。

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