風薫る5月
2025年5月10日

1828年5月8日、アンリ・デュナン誕生。スイスのジュネーブに生まれる。この日はいま「世界赤十字デー」となっている。
1820年5月12日、フローレンス・ナイチンゲール誕生。イギリス人ではあるが、両親の旅行中にフィレンツェで生まれる。その英語名を名とする。この日はいま「看護の日」となっている。
5月の前半は、いつもこの二人を思い描く。もう毎年のようなことなので、またもここで説明を詳しくしてゆく気持ちにはなれない。デュナンは、無償の奉仕を良しとし、犠牲の精神をモットーとしたが、ナイチンゲールは職務としての看護の使命を訴え、犠牲なき献身をモットーとした。必ずしも道が交わることのなかった二人だが、志したことは、同じ方向にあったと見てよいのではないかと思われる。
赤十字社の設立に尽力したが、銀行の倒産により破産に至り、20年間にわたり世間から隠れていたデュナンは、新聞記者に見出されたことがきっかけで、第一回ノーベル平和賞を受賞する。しかし、その後も質素な生活を送り、賞金は後に赤十字社に寄付されることとなる。
ナイチンゲールは、「クリミアの天使」あるいは「ランプの貴婦人」とも呼ばれたが、実質的な看護活動は2年ほどであった。そのためかからだを壊し(感染症との指摘がある)、執筆活動を続けるしかなかった。しかし、ヴィクトリア女王に認められ、特に病院の衛生環境の整備を大きく指導することができた。疾病者の回復の度合を、綿密な統計学を基に示したのである。また、卑しい存在に見られていた看護婦の立場を、現代のものに変えたともいう。
この精神を日本で引き継いだのが、大関和(ちか)である。幕末に生まれ、若くして嫁ぐが、その辛さに自ら離縁を申し出る。時に明治。手に職を得るためにも英語に関心をもち学ぶ中、キリスト教の信仰を与えられる。その牧師が植村正久であり、植村は和に看護婦になることを勧める。
当然、看護婦は卑しい女と見られていた時代であったが、桜井女学校附属看護婦養成所の一期生として入学し、卒業すると、いまの東京大学医学部附属病院の婦長に就任した。才能もあったのであろう。だが、看護婦の待遇や環境の改善の意見が医師たちに嫌われ、退職する。その後、他の病院で活躍する。
そのころ、日本では赤痢が流行していた。死亡率は研究では25%とも言われる恐ろしい感染症であり、多くの著名人の命をも奪った。和は、ナイチンゲールからの学びによって、感染症対策を徹底し、患者のために力を尽くす。
和の学生時代からの盟友鈴木雅と共に、NHKの2026年春からの連続テレビ小説「風、薫る」が描くドラマを楽しみにしている。「花子とアン」でも「あさがきた」でも、また大河ドラマだが「八重の桜」でも、キリスト教は思うようには強調されなかった(尤も後者でのキリスト教はその晩年に限るので仕方がない)。かろうじて「エール」では、教会のシーンが多用されたが、信仰がベースになるのではなかったと言える。
そこへいくと、大関和の生き方が与えられたのはキリスト教会であるし、そのスピリットがずっとその働きを貫いてゆく。もちろん、宗教をメインに描くことはないであろうが、なんと言っても植村正久が中心的な役割を果たすこと、この看護婦への道のきっかけに矢島楫子(かじこ)が登場するはずであること、そこは描かざるを得ないのではないかと思われる。
いまでは、クリスチャンの間でも、この二人の名前を聞いてもピンとこない人が増えているのではないかと危惧する。今後、こうした名前が、誰もが知る常識になってほしいと願うばかりである。
女性の生き方を守り支えようとする運動を、キリスト教の名でいまも続ける「日本キリスト教婦人矯風会」にも、和は後に大きく関わっている。大関和の生まれた日は、1858年5月23日。これもまた5月である。風薫る5月。5月はいい月だ。