お金の問題

2022年10月11日

私自身が、経済観念がない。いや、誤解を招く言い方だ。浪費するという意味ではない。生活の切り詰めについては、大学時代にとことんやった。京都に行かないといけない、との思いだけで家を飛び出したみたいな恰好になり、親には申し訳ない気持ちばかりがあった。できるだけ学費の安いところを選んだし、住まいは古くてもよいから極力実費を抑えられるところにした。自炊が原則だった。食費は1日400円というノルマを課した。昔だからできただろうと思われるかもしれないが、牛乳や卵などは今とそう違わないし、肉も特別今が高いような気はしない。特に京都では、安くすれば売れるわけではないのだ。
 
月末には、決算を親に手紙で報告していた。アルバイトは、時間と報酬との関係から、そして自分に向いているという意味でも、家庭教師がいいと思った。奨学金ももちろん借りており、生活していくにはとりあえず困らなかった。私に経済観念がない、というのは、少しでも儲かることのために努力をする気にならないことと、保険や投資めいたものに殆ど関心がない、という意味である。利子が高いところに切り替える、などといった頭が回らない。お金の運用には酷く疎いのである。
 
特に信仰を与えられてからは、必要なものは与えられる、という構え方が、より強くなっていく。実は陰で、親や妻が労苦しているのではあるが、私は呑気である。ただ、陰の労苦の故に助けられていることに無関心でいるわけではない。助けられていることには常々感謝している。
 
でも、与えられるということは、嘘ではない。福岡に戻って、マンションを買うことができたのも、奨学金や貯めていたもののために、酷く負担が大きいということはなかった。また、あるとき、子どもたちの学習机が必要だということになってきた。年の近い兄弟がいて、二つの机は、置くスペースはなんとかあるものの、机が買えそうになかった。私が学生として上洛した最初に、みかん箱を机にしていた時期があるのを、子どもたちに真似させるわけにはゆかない。ところが、時の政府が、子どもに一律にお金をばらまいたのである。ちょうどそのタイミングだった。机が買えた。
 
その後、やはりあることで少しまとまった金額が必要になることがあった。だが、あいにく先立つものがない。そのとき、福岡で地震が起こった。私の家では、最低限のことはしていた。タンスは天井との間で突っ張っていて、食器棚は観音開きは避けていた。マンションの他の家では、食器に被害が出たところがあった。壊れずに済んでよかったが、それよりも、当時、福岡で地震保険に入る人など、殆どいなかった。しかし阪神淡路大震災の経験があるために、マンション暮らしではあるが、地震保険をかけていた。すると、マンションの遠い反対側の一階の隅の、ほんの何枚かのタイルが剥がれた。もちろん建物には何の影響もないが、これで、保険が下りたのである。必要な金額が、これで満たされた。
 
息子たちはそれぞれ、国立大学に進むことができた。妻は医療従事者としては決して高額給与だとは言えないが、十分な収入があった。それを計画立てて考え、よくぞ先を見越して、学資保険などで必要分をつくってくれた。奨学金も、上の二人は対象となった。一番下は、その後の妻の頑張りのため、奨学金の条件を少し越えてしまった。しかし、今度はコロナ禍における給付金や特別手当があった。
 
牧師や伝道者からも、よくそのような話を聞いたものである。教会の特別集会が定期的にあり、ゲストの伝道者の中には、一文無しのようなままに伝道の旅に出るような、無謀なスタートを切った人がいた。が、そこへ不思議な導きで、旅の費用が与えられていく、そんな話も聞いた。教会堂を建てようとしたときに、期限ギリギリに費用が与えられるというものもあった。
 
なぁに、そんなのは偶然さ。確かにそうかもしれない。そう思う人がいてもいい。自由である。だが、それは神からの恵みである、と受け止めるのも、また自由ではないだろうか。「野のユリ」という映画がある。シドニー・ポワチエが車の故障でたどり着いた家に、修道女たちがいた。彼女たちは、その男を見て、「神が遣わした」と純粋に信じ、共に教会堂を建てていくのである。もしご存じない方がいたら、お薦めしたい映画である。
 
これは神が遣わした人だ。神が与えてくださったのだ。そのように自分で思うこと自体、誰にも迷惑をかけるものではあるまい。もちろん、決してひとを騙して金を巻き上げるようなことをしているわけではないとしよう。また、私の場合のように、誰かが非常に労苦しているのであれば、それに気づこうともせず能天気に、神に感謝、などと無神経に言っているのもよくないだろう。だが、それを踏まえて、結局のところ神が助けてくださったのだ、と祈っていたとしても、それは少しばかり、幸せなことではないだろうか。



沈黙の声にもどります       トップページにもどります