『100分de名著 金子みすゞ詩集』

2022年1月18日

Eテレで月曜日夜から本放送が流れている番組「100分de名著」は、東日本大震災の直後から続いており、好評である。私もこの番組で、何冊の良い本と出会ったか知れない。早いところ「聖書」そのものが出てこないかと愉しみにしているが、それはともかく、2022年1月は「金子みすゞ詩集」が取り上げられている。
 
子どもたちには、四半世紀前ほどからおなじみである。特に「私と小鳥と鈴と」は心に残るものとなっていた。曲がりなりにも子どもを対象に教える仕事をしていれば、そこで登場した作品について知る機会がある。大人たちも、たぶん東日本大震災のときに繰り返し流れた「こだまでしょうか」は、人々の心に、その詩の如く、響いたといえよう。
 
ところが「100分de名著」として本を扱う番組にしては、金子みすゞ自身、自分の詩集を出版していない。出版を夢見つつも、女性詩人の扱いは当時不遇としか言いようがなかった。それを儚んでということも、一部心に隠れていたかもしれない、みすゞは26歳にて睡眠薬により自ら旅立った。本書にあるとおり、書店の娘として学校で首席であるほどの才女が、社会人としても働き、結婚もし出産もして女性としてできることを悉く経験しつつも、時代が染め上げた常識の中で望みを失うのである。
 
しかしその詩は、何か私たちを掴んで離さない。どうしてか。その詩を味わうための観点を、本書は三つ挙げる。もちろん、それは本書と番組からお聞き戴きたい。解説は、松本侑子さん。作家であり翻訳家であるが、テレビ朝日の「ニュースステーション」が始まったときのリポーターと天気予報を担当していた姿を思い起こす人もいるかもしれない。6600人の中から選出され、しかも番組作りに強い影響をもったといわれる。担当中、大きな文学賞を受け、赤毛のアンシリーズの新しい独特の翻訳で現在も活躍中。コンピュータ関係にも詳しく、その他枚挙に暇がないほどの才能を有する、まさに才女である。彼女が、この10年間取り組んできた金子みすゞの研究は、その弟との関係について新たな光を当て、恐らく未発見と言える書簡を探しだし、それをもとに近年、金子みすゞと弟との姿を描く作品を刊行している。本番組は、それに基づく、彼女の解釈をも提示するものとなっている。
 
番組も始まっており、見所満載だが、関心をもたれた方は、やはりテキストをお薦めする。番組を、テキストを開きつつ視聴するというのもよいかもしれない。みすゞの詩をどのように受け止めるかは各人いろいろあってみんないいであろうが、戦争の惨さや男性の不条理、ピュアな心などは、強く主張するような文はひとつもないにも拘わらず、伝わってくるのではないか。本書の明らかにするみすゞとその時代の歴史は、読者の心を、きっとひとつ刺し、そしてきっとたくさん豊かにしてくれることだろう。請け合いである。



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