クリスマス・ツリーの下に
2021年12月19日
アメリカでは、ストッキングにサンタクロースがもってきたプレゼントを、そのツリーの下に並べ、それを25日の朝に、一斉に開封するというならわしがあるそうだ。もちろん、家族同士で贈り合うプレゼントも、同様にそのツリーの下に置いていてよいことになる。
その家は、貧しかった。それでも、クリスマス・ツリーを飾ることだけは怠らなかった。小さな子どもたちの夢を壊してはいけないと思っていたのと、やはりクリスマスにツリーがないと、クリスマスにはならないと思ったのだ。ごちそうも、例年のようにはできなかった。でも、ささやかながらクリスマスらしい料理の準備は整えていた。母親は明るく歌を口ずさみながら、25日の食事をこしらえていた。
ただ、実のところプレゼントなど互いに準備できるような状態ではなかった。父親の失業、母親の思わぬ医療費などで、プレゼントの交換も、誰もが諦めていたことは、言わなくても了解していたのだった。
ところが、25日の朝、ツリーの下には、プレゼントがいくつも置いてある。きれいな箱に、ではない。むき出しのままに、何かが所狭しと並んでいる。
家族が集まった。それは、昔なくなったものと思っていた、壊れたトンカチであったり、どこかに消えていた父親のレンズなしの眼鏡であったり、はたまたなくなったとばかりに思っていたけれど、塗装も剥がれていたのでまあいいかと諦めていた母親の手鏡であったりした。つかなくなった、兄のボールペンや、捨てられたと思っていた姉のつくったドライフラワーも、そこにあった。
いったい、これはどういうことなんだ。
でも、こんなことをするのは、家族の中にひとりしかいないことは、誰もが分かっていた。他のみんなの視線が、末の男の子に向かった。
彼は様子をうかがう顔をしていたが、その顔は次の瞬間、驚きに変わった。父親が、母親が、兄が、姉が、彼に抱きついてきたのだ。もみくちゃにされながら、彼も笑っていた。部屋は笑顔でいっぱいになった。
(とある体験談をヒントに)