大学について少し考えてみる

2021年4月27日

大学とは何か。歴史を辿ると、ヨーロッパにおけるその成立をひとつ押さえなければなるまい。いまから800年ほど昔の世界に、大学は生まれた。人類は過去に大帝国をいくつか経験したが、ヨーロッパでは国家という概念よりも、むしろ私たちのイメージする都市国家としての機能が通例であったものと考えられる。その中で、互いの関係はより進展しており、いわゆる自治都市という考え方で成立した共同体は、自由に人の流れを形成していた。
 
そこにはラテン語という共通語があり、文化交流が、大学という学びと研究の場所を育んできたのだ。
 
現代、人の移動は当時とは比較にならないくらいに格段に増えた。当時才能や立場のある限られた人が移動してつくった大学などの文化であったが、いまは平凡な人でも移動する。日本は半世紀前までも海外に行くことはよほど特別な出来事だったのに、もはやそんな時代を懐かしく思うようなこともない世代ばかりの世の中となってきており、卒業旅行で海外に出るのも当たり前すぎることとしか思われないかのようにもなっている。
 
人の移動が日常的になるところ、他のものも付随して移動することが可能になる。ウイルスもそうである。かくして、感染力の強力な、新型コロナウイルスと称されるものが、この一年余り、人間の行動と思考を支配している。
 
一部、その移動なしでも交流するために、リモートと呼ばれる、電子メディアによる対話を可能にした技術が活かされている。それはそれで知恵である。それにより、互いに励まし合い、協力し合ってこの困難を乗り越えようと努めている、それが世界の共通の課題であり必要であるのだろう。
 
果たして送別会や卒業旅行が、どれほど必要なことであるのか、私には判断がつかない。人により、価値観が違うから、一概に端的に非難するつもりはない。ただ、他人に自粛を強いているある種の権力のある側の人間が、自分は構わないのだ、と自由に振る舞うというのは、認めるわけにはゆかないだろう。
 
彼らは背負いきれない重荷をまとめ、人の肩に載せるが、自分ではそれを動かすために、指一本貸そうともしない。(マタイ23:4)
 
自分では何一つ実践しないのに、口先だけで自分本位な、自分を正義ぶるばかりの発言が、いま簡単にできる世の中になっている。もちろん私もそれを自戒しながら呟く。まさに私がいま述べているのは、そういうことにほかならないのである。
 
と同時に、同じ穴のムジナに対して、自分に対してと同じように、警告を発することは、ためらってはならないとも考えている。
 
大学はいま変革の時代に入っている。政府の意図に沿うものに変えられようとしているとも言える。そもそも日本の高校で哲学を考えさせないというのは、明治時代につくられた国家支配の構想の流れそのままに学問や大学を定めようとしているのだとも言える。
 
自由都市にて展開したかつての中世ヨーロッパにおける大学も、その後その自由都市の衰退により、変化する。その後、印刷術の発展が、人の移動を必要としない大学のあり方を定めていき、カントあたりから、いわゆる大学教授という存在が学問のリーダーシップをとっていくようにもなる。だが、それは勃興した国家と必ずしも相容れないものとして、消滅すら危ぶまれた。そこで大学が息を吹き返すのが、国家の知の役割を担うようになってからである。日本ではこの動きの時に、大学が生まれた。日本の大学は、端から国家のための機関だった基盤が消せないのである。
 
このような歴史の振り返りをして、これからの大学への希望を語るのが、吉見俊哉氏の『大学とは何か』(岩波新書・2011年)であった(コロナ禍の情況を踏まえた続編が2021年に出ている)。いまやその大学に入るために血眼になって暗記や解法テクニックに勤しまなければならない受験生たちであるが、その中には、このような大学のあり方そのものを懸念する若者もいる。恰も理性自身を検討することを課題としてカントのように、大学自体について考える大学教授や学生が現れることは、どうしても必要なことであろう。
 
その中で、このコロナ禍の時代、大学は一年間対面を止められたところも多く、今度は政府のほうが対面をしろというような指示で、金をちらつかせて強要するような恰好にもなっている。いや、一部地域では、再びリモートへと動くように急遽変わり、コロコロと事態は変化する。あらゆる立場で、「備え」が利かなくなってきているのだ。大学のあり方を考えるのに、大学内部の人間だけに任せておくわけにはゆかないのではないか。市井の者たちが、もっと関心をもたなければ、教育がますます、人間を道具化していくことにもなりかねない。感染の危機も当然考慮すべきだが、この精神的危機、引いては文明の危機にも、必ず目を向け、対処していくようでなければならないのである。



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