「ハレルヤ」と「キリエ・エレイソン」

2020年6月27日

子どもたちが歌って踊る「パプリカ」、大人気です。「2020年・東京オリンピック」の応援ソングとして現れたのでした。米津玄師による歌も、ムードあるアニメーションと共に好評です。歌詞の中に「ハレルヤ」が出てきます。その意図はよく知りません(悲しい歌詞として解釈する人も見つけました)。日本語との兼ね合いで「晴れるや」のように重ねて、ゆずが朝ドラ「ごちそうさん」の主題歌として「 雨のち晴レルヤ」をリリースしたことも思い起こします。古くは、黛ジュンのデビュー曲「恋のハレルヤ」なんかを思い出す方もおありでしょうか。
 
原語に近い形でそのままよく唱えられる言葉として、聖書の中にこの「ハレルヤ」がよく見られ、また教会でも何かと用いる語のひとつだと言えます。もちろんこれは「晴れるや」ではなく、ヘブル語に由来するのですが、「ハレル」と「ヤ」から出来ている言葉で、「賛美せよ」+「主を」のようなつくりとなっていることは、聖書をよくお読みの方はご存じのことでしょう。詩編と黙示録だけに「ハレルヤ」と訳された言葉が出て来ます(旧約聖書続編のトビト書にも一箇所ある)。特に詩編の場合、この言葉から始まる一連の「ハレルヤ詩編」と呼ばれる詩があることもよく知られています。
 
ほかに、プロテスタント教会ではあまり表に出ませんが、教会でよく原語のままで用いられる語として「キリエ・エレイソン」のように唱えられるものがあります。東方教会でよく使われるイメージもありますが、カトリックでも使われていることと思います。こちらはギリシア語由来で、「キュリオス」が「主」であることはよく知られているでしょう。意味は「主よ、あわれみたまえ」のような内容だと思います。
 
賛美や祈りの中で他用され、儀式の中でも欠かせない原語的な言葉であると言ってよいでしょう。そしてもちろんのことのように、どちらも「主」という神の名が入っているフレーズです。しかし、この2つの言葉は、ずいぶんと違う方向性をもっていることに気づかされます。
 
「ハレルヤ」は「主を賛美せよ」。誰が誰に言っているのでしょうか。時折「わが魂よ」に続けてこれが出てくることがあります。そのときには、自分自身に向けて呼びかけていると言えます。しかし、わざわざそのフレーズが持ち出されたからそうなのであって、ただ単に「主を賛美せよ」とくれば、これは、詩人が他の仲間たちに向けて呼びかけているようにも思えます。このとき、「主」は、いわば三人称の位置にあるように見えます。私・他の人々・そして主。自分の魂に呼びかけているときにも、私・告げる対象の私・主の順に、一人称・二人称・三人称となっているように捉えることができるでしょう。
 
他方「キリエ・エレイソン」つまり「主よ、あわれみたまえ」の場合は、3人目の存在がありません。自分・主という構図の中で自分が主に向き合って二人だけがいるのであり、いわば「主」は二人称の位置にあるように見えます。
 
良し悪しではありません。ただこの位置関係は貴重だと思うのです。結局クリスチャンとはどこにいるのか。神を信じるとは、どこに立っていて、どちらを見ているというのか。この根本的な、そして基本的な立場というものが問われることになるだけです。結論から言えば、どちらの視点も必要であり、片方だけでは適切でない、と考えます。
 
神を第三者として置くだけの信仰。これは知識としての神であり、へたをすると自分の関心・趣味の範囲内の出来事であるかもしれません。聖書はいい本だね、読むと心が洗われるよ。これでおしまいにする人がいます。自分に影響を与えません。与えたにせよ、主体は常に自分で、自分が選んだというあり方の構造がそこにあるだけ、という感じです。
 
そこで神と向き合い、神と出会う体験がどうしても必要になるわけですが、ただそれだけという神の置き方は、厳しい意味での修道的人生となります。冷たい言い方になりますが、他人などどうでもよいということになる可能性があります。キリスト者が単独で信仰を守るという状況もあるかもしれませんが、多くの場合は「教会」という共同体があります。そこで横のつながり、他の仲間たちへの呼びかけがあり、関係が成り立つことになります。これを完全に欠いた形だと、ヨハネ文書にいう「愛し合う」道を捉え損ねることになりかねません。
 
私はどこにいるのか。神の前です。そして、ひとは神に向き合ってこそ命が与えられるというのが、聖書の本筋ではないかと思います。それと共に、同じ神の前にいる隣人がいて、自分もその中の一人であるというつながりの中にいることも、思慮に欠いてはならない事実です。これら2つの方向に関する「愛」が、イエスの示した2つの根本的な聖書の戒めでありました。車の両輪のように、2つの愛が、私たちが道を走る足となるのでしょう。



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