珈琲美美

2019年9月17日

先般、うれしい出会いがありました。たまたま歩いていた道で、コーヒー店を見つけましたが、その看板を見て、足が止まりました。「珈琲美美」、それは私にとり、かけがえのない名前でした。美美のマスターとの出会い、記憶するかぎりたった一度の出会いだったのですが、それが私をコーヒーの道に導いたのです。
 
美美が今泉にオープンしたとき、友だちのひとりが、いい店があるよと誘って、数人で訪れたのがその時でした。まだウブな高校生を相手に、マスターが、コーヒーはこうやって淹れるんだよ、と目の前で淹れて教えてくれたのです。コーヒーのドームが盛り上がるのを初めて見た高校生は歓声を上げました。思えば、それが私のコーヒー生活の原点でありました。
 
このことはかつてもお話ししたので、もしかすると覚えておいでの方もいらっしゃるかもしれません。
 
看板を見て、入ることにしました。日ごろ喫茶店になど実は殆ど行かない私が、どうしても、と引っ張られるように足を踏み入れたのです。もちろん、マンデリンを戴きました。私がマンデリンと出会ったのは、教わった時ではなく、その後しばらくしてからですが、自分としては毎朝必ず挽いて飲んでいる豆です。しかし……少し舐めて、愕然としました。違いすぎる。自分の淹れるコーヒーでまぁいいやと思っていた自分が、井の中の蛙大海を知らずどころか、月とすっぽん、雲泥の差ではありませんか。私はただの泥でした。
 
これぞコーヒーというもの。私は少し口に含んでは水を舐め、また新たに香りと味を愉しむ。これを繰り返して、魂の一杯を堪能しました。
 
今泉にあったときに、マスターにコーヒーの入れ方を教えてもらったのです。カウンターのマスターに――それは私に教えてくれたマスターの奥様に違いありません――言うと、もう40年前の……と口にして、笑顔で受けてくださいました。
 
森光宗男さんは韓国にて客死。そのときにもこの場でお伝えしたかと思います。今泉の店がどこかに移転したという話は聞いていたのですが、詳しく調べていませんでした。それが偶然のように通りかかり、再び出会えて感動するばかりでした。小さな店ですが、お客さんも絶え間なく、何よりもコーヒーの良さを知る方が、きっといつも訪れていることでしょう。
 
ふだん買う豆の何倍もする価格ですが、マンデリンを戴いて帰りました。ネルドリップでもないし、自分で淹れてもあれほどの味は出ませんが、私にとり何ものにも代え難い味わいをもたらしてくれました。


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