【聖書の基本】敬老

2019年9月8日

敬老とは文字通りに見れば、老人を敬うということでしょう。年齢を重ねてきた人を尊敬するかどうか、それは当たり前だ、という考え方もあるでしょうが、厄介者だと本音を漏らす人もいるでしょう。敬老という言葉が、もちろん聖書にあるわけではありませんが、聖書文化では一般に、老人には敬意を払っているように見受けられます。
 
 力は若者の栄光。白髪は老人の尊厳。(箴言20:29)
 
 白髪の人の前では起立し、長老を尊び、あなたの神を畏れなさい。わたしは主である。(レビ19:32)
 
なにしろ律法にこう書かれてある以上、イスラエルでこれが無視されるとは思えません。
 
しかし他方、ヨブ記では若者エリフがこう言い放っています。
 
 日を重ねれば賢くなるというのではなく
 老人になればふさわしい分別ができるのでもない。(ヨブ32:9)
 
これはなかなか強烈です。どうかすると、老人医療に費用を使いすぎているという政治家の、ある意味で数値計算からすると尤もな意見が発され、批判を受けますが、それでも多くの人の心の中に、老人がいなければその分のお金をほかに回せるのに、などという意識が、潜んでいる可能性は否定できません。それは福祉に関する予算についても同様ですが、そんなことはいけない、と訴える人も、果たして心の傾向性においても本当に解放されているのかどうか、問われるかもしれません。
 
ただ道徳的には、日本では通例、年長者に敬意を表する考え方が基底にあるように思われます。これは儒教の影響が大きいのでしょう。長幼の序という考え方は、年齢が上であるというそれだけで、尊敬の対象となるという社会秩序を定めています。これがさらに徹底されているのが恐らく韓国で、それは韓国の方にお聞きしたほうがよいかと思いますが、いまもなお年齢関係での上下意識はただならぬものがあると言われています。
 
聖書で印象的な老人とは誰でしょうか。モーセは120歳で死にますが、目はかすまず活力も衰えていなかったと記されています。ヤコブも年をとってエジプトに渡り息子ヨセフと再会するなど波瀾万丈の人生を送りましたが、当時そんなに長寿社会ではなかったであろうことを想像すると、老人としてそこにいるというだけで尊敬を集めた可能性も理解できるような気がします。イエス誕生後に祝福したハンナは84歳とまで書かれている高齢でした。シメオンの年齢は分かりませんが、これで死んでよいと言っているくらいなので老人ではないかと推測されています。
 
しかしなんといっても、老人ということで思い起こすのはこれでしょう。
 
 その後
 わたしはすべての人にわが霊を注ぐ。
 あなたたちの息子や娘は預言し
 老人は夢を見、若者は幻を見る。(ヨエル3:1)
 
 神は言われる。
 終わりの時に、
 わたしの霊をすべての人に注ぐ。
 すると、あなたたちの息子と娘は預言し、
 若者は幻を見、老人は夢を見る。(使徒2:17)
 
よく見るとペトロが引用したものは最後のところの順序が入れ替わっています。もはや老人は夢や希望を懐くことはないだろうのに、主に出会い救われて霊を受けるという新しい時代がきたならば、大いにそれを懐いて喜ぶということを表しているとよく言われます。ともかく神の霊を受けるということに、人は大いに変わるということ、人の考えではありえないようなことが起こるということを示しているのだと思われます。
 
いつだか「暴走老人」という語が流行りました。行動に歯止めが利かなくなる老化現象の中で、どうにも困ったお年寄りが社会問題化したことがあったのです。認知問題も含め、お年寄りの中には対処に困るという事態があるのは、確かに否定できないことです。聖書は、そんなケースが教会にあったときにも、対処法の知恵が書かれています。
 
 老人を叱ってはなりません。むしろ、自分の父親と思って諭しなさい。(テモテ一5:1)
 
逆に言えば、叱りとばしたりすることが、実際あったのでしょうね。福祉施設での虐待行為がいま問題となっていますが、働いている方のストレスについても助けることを考えていかないと、ただ規則や非難だけで人の命が守れるかどうかは疑問です。働き方改革も関係するかもしれませんが、よい道が見つかりますようにと願います。
 
姨捨伝説があり、日本では昔、高齢になると山に捨てるという風習があったと聞きます。残酷だというよりも、そうやって食い扶持を若い者に増やすという、事後犠牲の思いやりであったとも言われますが、背景には確かに、貧しい村の生活があったことでしょう。経済がすべてではないにしろ、経済もまた、無視できる要因でないことを覚えます。私たちは、「敬老」という言葉を、口先だけのものとしないために、どうするとよいのか、まだまだ考える必要がありそうです。



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