アーメン
2018年2月11日
アーメン、ソーメン、ヒヤソーメン。そんなからかいのフレーズも、今や死語でしょうか。昔はよく言われました。キリスト教の人は、なんやいつも「アーメン」ばっかり言うとる、ということですね。お祈りの締めことばは、皆で「アーメン」。迷うのは、代表で祈った人が「アーメン」というタイミングを見計らって、皆も合わせて「アーメン」と言うべきか、代表の「アーメン」の後に、一呼吸遅れて皆で「アーメン」と言うべきか。これは教会によって習慣が異なる場合があります。手話通訳を介しての場合には、ひとつ遅れたほうが助かるのではありますが……。
さて、この「アーメン」はギリシア語のままです。福音書でイエスが時折告げています。「え、翻訳にそんなのありましたかいな」と思う人もいらっしゃるかもしれませんが、たとえばヨハネによる福音書では、新共同訳に「はっきり言っておく」が幾度も現れます。この部分を、原語の直訳の形で岩波訳は「アーメン、アーメン、あなたがたに言う」と示しています。因みに新改訳は「まことに、まことに、あなたがたに告げます」としており、口語訳は「よくよくあなたがたに言っておく」となっていました。文語訳だと「誠にまことに汝らに告ぐ」という感じで、威厳を感じさせますね。ケセン語で知られる山浦玄嗣氏は、臨場感溢れる訳で、ここを「お前さんたちにキッチリシッカリ言っておく」と訳しました。そして、知る人ぞ知る「コテコテ大阪弁訳聖書」では、マタイによる福音書しかないのですが、このフレーズを「ほんまに言うとくで」と言い放っています。まぁ、そんなとこやろな。
ギリシア語では「アメーン」と発音(本来「メ」に高低音によるアクセント)します。意味は、邦訳が訳出している通り「まことに」「本当に」のような意味を伝える語です。二度繰り返すこのフレーズはヨハネによる福音書の特徴です。フレーズ全体としては、「アメーン、アメーン、レゴー、ヒュミーン」と読みます。「レ」にアクセントがあり、「ミー」のところは、音を上げてすぐ下げるような読み方をします。「レゴー」は、「I say」のこと。ギリシア語では、普通は主語の人称を示さず、動詞の語尾で人称と数を表します。「レゴー」は1人称単数で、辞書はこの形を代表として調べることになります。「ヒュミーン」は「you」の与格です。英語で言うなら、間接目的語として「I tell you the story.」に使われる「you」のような働き方をします。ここでは「to you」のようなニュアンスになります。
しかし実はこれは、ギリシア語由来ではなく、元はヘブル語であり、新約聖書ではヘブル語の発音をそのまま(英語の発音をカタカナに置き換えるように)ギリシア文字で表した、というだけのものです。ヘブル語は、発音については時代や地域により差異がある可能性があるものの、「アーメーン」が標準に近いようです。たぶん、語られていたというアラム語も同じだと思うのですが、これについては自信がないので、ご存じの方、修正をお願いします。
讃美歌の終わりの「アーメン」は、その殆どが、「下属和音+主和音」の形をとりますが、これを「アーメン終止」と呼ぶことも、皆さんご存じですね。
なお、時折「エイメーン」と言う人がいるのは、「a」を「エイ」と呼んでしまう英語特有の読み方で言っているだけで、原語には、日本語の「アーメン」のほうがよほど近いので、自信をもって「アーメン」と言いましょう。尤も、イエスがギリシア語で語っていたかというと、どうもそうではないようでありますけれども。
さて、最後に有名な無理問答をひとつ。――晴れの日も「アーメン」とはこれいかに。雨の日も「ハレルヤ」と言うがごとし。もはやおやじギャグでしかない句も、ちょっと噛みしめてみましょうか。