本

『高齢者とがん』

ホンとの本

『高齢者とがん』
山口建
中公新書2890
\1250+
2026.1.

 必ずしも高齢者に限らなくてもよいとは思うが、高齢者が手に取りやすいようなタイトルになっている。高齢者のために役立つ情報や、気をつけるべき事柄がいろいろ書いてあるのは確かである。
 副題が、「健康管理、診断・治療から心と暮らしのケアまで」と記されているのは、内容を的確に示していて、好感がもてる。つまりは、分かりやすい表示だということである。
 その「はじめに」は、このような段落から始まる。
 ――我々は、2人に1人ががんに罹るという「がんの時代」を生きている。毎年約100万人ががんと診断されるが、年齢は9割異常が50歳以上で、さらに、全体の7割5分は65歳以上である。このように、がんは高齢者に多い病気である。
 がんも今は6割が治せるようになったことを告げると、筆者自身が、がん医療を志してから半世紀を経たことに触れ、「1人でも多くの人々が、がんに罹らず、また、がんに罹ってもできるだけ良い結果を得るための手立てを伝えたい」という願いを明らかにする。また、「がん医療の進歩を伝えることも本書の目的の一つである」と言い、がん患者にも思いやりを寄せつつ、医者として冷静にデータを見つめ、症状を見定めようとする姿勢が、この「はじめに」から、十分伝わってくる。
 文献はインターネットで閲覧できるものについては、二次元コードを巻末に載せている。この辺りはとても現代的なやり方だと言えよう。
 さて、具体的な内容はもちろん本書を手に取ってお読み戴きたいものだが、最初の章は「高齢がん患者の特徴」と題し、高齢化社会の現状を知らせた後に、技術の進歩と治療のリスクや精神的情況も含めて、様々な配慮が説明される。経済生活への支援まで見通した心配りが感じられて、最初の章だけで、惹き混まれてしまう。
 次の章は「がんという病気」について説明する。そもそもがんとはどういう病気なのか。湿潤がんと転移との関係となると、やや専門的になるが、患者にとっては重要な情報である。発生臓器と患者数などのデータも示し、がんの遺伝性についても話してくれる。また、高齢者というタイトルを掲げながらも、小児がんについて、また若いAYA世代のがんについても説明を施している。この辺りが、私が単に「高齢者」だけに制限をかけないのがよいのではないか、と思った理由の一つである。
 さらに「健康管理とがん対策」という章が設けられている。ここには、がん予防の方法にも触れながら、がん健診について、それから現実に診断されたらどうするかを含め、どのように気づくことができるのか、についてもヒントを与える。ここは実際上、いちばん気になるところであるのかもしれない。
 続いて、「がんと心」の章。ここには基本的に、精神的な支えについて、たっぷりと教えてくれる。周りの人の心がけのようなことも書かれてあるので、家族と共にこうしたところを見るのもいいし、家族だけで本書に触れ、がんについて学ぶのもよいのではないかと思う。また、「がん」という問題に関わらず、生と死に関わる心理について語られているので、ここは医学的な問題に限らず、たとえば教会の牧師にとっては非常に学ぶところが多い章ではないかと思う。否、私から見れば、必須の学びがここにある、とさえ思うのである。
 説明を急ごう。「治療の準備」の章では、病院でどのように治療してゆくか、の実践的な指導がなされる。普通なら、病院で初めて、これからこうしましょう、と聞かされるようなことを、たっぷりと予習ができる。これは、医療側の著者が患者に説明するようなこと、したいことがあると言えるだろう。インフォームド・コンセントやセカンドオピニオンの問題もよく説明されている。
 さらに「治療の実践」の章では、手術だけでなく放射線療法や薬物療法の実際と効果、また副作用についても多々記されている。緩和ケアも説明されている。
 それから細かいと思うのは、「初期治療後の診療と暮らし」という章が設けられている点だ。がん患者にとり、治療をしたその語どうする、ということが、実際上たいへん大きな意味をもつだろうと予想されるからである。
 さらに「進行・再発がんの治療」と、次の段階に進んでしまった場合のことにも触れる。そこには、辛いことだが終末期の問題も関わってくる。
 そして「がんと情報」と題して、どのように情報を得ることができるか、の道も述べられる。しかし、民間療法や巷の健康食品については、十分注意をするように釘を刺すことも忘れない。単に医療側からの発言というよりも、これはもう常識である。
 生活面への視座も用意してくれている。「がんと暮らし」と題する章では、経済的な問題を扱い、行政による医療福祉サービスが紹介される。本当に現実的な本である。
 最後の章が「家族の役割と心構え」である。ここは、周囲の者が主人公となる場面だ。患者本人が読むのは厳しいものがあるが、それは「看取り」というところまで書かれてあるからだ。
 実にありがたい本だと思う。ただ、最後に私が驚いたのは、その「おわりに」の数頁である。がん研究に関わるとはいえ、皇族に関する背景が、かなり詳しく書かれていたからである。もちろん、皇族の名でがんのための研究の働きがあることは結構なことであるのだが、こういう説明の場でもない限り、なかなか知られないことであるかもしれない。著者は、皇族の方ががんで亡くなったときに、看取りを担ったのだという。それで、皇族の健康管理にも関わるようになったということであるらしい。
 これは、「がん」に関わるすべての人にとり、助けになる本ではないか。今後も、情況が変われば改訂されて発行され続けてほしいものだと切に願う。




Takapan
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