本

『人間科学部』

ホンとの本

『人間科学部』
大岳美帆
ぺりかん社
\1600+
2022.6.

 これは「なるにはBOOKS」シリーズの「大学学部調べ」の一冊である。「中高生のための学部選びガイド」だという。私はいまさら大学に入学しようとするものではないが、関心のある分野なので手に取った。
 それに、今時の大学の内実というものには、誰でも関心を寄せていなければならないとも思う。世の中が何を目指しているのか、どういう動きをしているのか、それを知るには、大学を知るのが適していると考えるのだ。
 人間科学部なるものが生まれてから50年だという。私の受験当時もわりと珍しい気がしたし、私は伝統的な学部のほうがよいと思っていたので、人間科学部に興味をもつことはなかったが、今にして思えば、これは私に合っていたかもしれないと思う。本書が、そのようにうまい紹介をしてくれたということでもある。
 この学部では、狭い専門分野を求めない。人間を知るということは、様々な入口があるはずだからだ。但し、それは科学的な手法でなければならない。文系・理系といった区切りをつけるものではない故に、これは案外いま注目のリベラルアーツの考え方の本質といえるのかもしれない。
 本書は、ふれこみにもあるように、中学生にも読めるように配慮してある。そこまで必要だろうか、と思われるほどに、ふりがなが打ってあるのだ。これは、学問の裾野を広げようとするものとして、好感がもてる。どうしても一定の用語を漢字交じりで紹介していかなければならない。また、抽象的な概念も混じる。「実践的」や「作業療法士」というあたりでさえ、読めなくて尻込みする中学生が、いるかもしれないのである。
 一口に「人間科学部」といっても、分野は様々である。心理学や教育学、社会学をはじめ、医療系の領域も重要であろう。地球環境へと目を注ぐことも大切である。それぞれについて、丁寧に案内がなされている。
 大きく学問という視点ももちろん重要であるが、大学生活というものも、中高生にとっては分からない者である。人間科学部に限らず、大学のことは知りたいだろう。その上で、大学生一般というものではなく、人間科学部ならではの視野というものが説かれているとなると、その道を考える中高生にはほんとうに貴重なガイドとなる。
 大学卒業後についても、もちろん押さえてある。そして全般的にだが、卒業生の声が多数寄せられているのもいい。それも、一言ではなく、4頁ずつたっぷりと語られているので、大いに参考になるだろう。
 では、入学するためにはどうすればよいか。こうした点も、ぬかりがない。親切で、読みやすい本になっていると思う。
 伝統的な学部のほかに、近年は新たな名前の学部や学科がたくさん現れている。しかも、大学間でも学生の奪い合いのような競争が必然的になってきている事情もあって、大学毎に特色を出してくるようになっている。そうなると、同じ学科名があっても、大学毎にずいぶんと内容が違うということが起こるかもしれない。詳細は、その大学について調べる必要がある。だが、それにしても、これだけ丁寧な案内書があるということは、生徒たちにとり助かることは確かであろう。昔、こんなのがあればよかったのに、と思うことは、今の参考書などを見てしみじみと思うが、本書もまさにそうした一冊である。
 ほかの学部のものも、覗いてみたい気がする。もちろん、私の場合は文学部と決まっているが、近年減少の一途である学部を、どう魅力的に伝えているか、そこも知りたいものだと思う。なんだか、教会の話のようになってしまったが。




Takapan
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