『ＮＨＫ スポーツ大陸 石川遼・福原愛・髙橋大輔』
『ＮＨＫ スポーツ大陸 石川遼・福原愛・髙橋大輔』
ＮＨＫ「スポーツ大陸」製作班編
金の星社
\1365
2010.12
小学生にも読めるように、ふりがなが豊富である。おそらく中学年あたりを下限においているのではないかと思われる。
ＮＨＫの番組取材から、子どもたちに、スポーツを続けていくことの困難や努力を、有名な選手を扱うことでより読んでもらおうとしてまとめた本である。
番組で取り上げられた中でも、特に有名で、小学生にも感心をもたれやすいメンバーがここにある。石川遼・福原愛・髙橋大輔選手である。
その生い立ちからゆっくり説明している暇はない。ではどこを番組では大きく取り扱うのか。優勝に至るサクセスストーリーなのか。実はそうではない。一度注目され、有名になる、だがその後の試合で、うまくゆかないことを経験する。舞台はそこだ。名選手でも、悩みがあるのだということを子どもに伝える。また、そのときに、基本に戻って自分の技を思い出すようにするなどの必要があることを学ばせてくれる。
このシリーズには、ほかに、野球選手を集めたものが二つ、サッカー選手を集めたものが一つ出版されている。今後も、子どもたちの共感を得るような選手が取り上げられていくに違いない。
おそらく、番組では映像や写真をつないでこの本に記されたようなことがナレーションされたり、説明されたりしていくのだろう。それを起こして文字にすれば本ができるか、というと、これまたそんな簡単にすべてが完成するものでもあるまい。
現に、この優れたルポにおいても、時間順が崩されて紹介されていくことがよくあるので、子どもならずとも、今の話はどこにつながっているというのか、見失いそうになることがある。まして子どもには、この時間軸を動かすというのは、捉えにくいものである。一方通行の物語が本当はいい。ただ、そうすると、何をクローズアップしていくのか、焦点が定まらないというのも事実である。
何枚かずつ写真が掲載されているが、本文との直接的関係が薄い場合が多く、内容のイメージに役立つであろうことは分かってはいるが、これらの写真だけで他の図解めいたものがないというのは、少し淋しい。
また、この本は三人三様スポーツが異なるわけだが、それぞれの記述の中に、そのスポーツの専門用語が出てくることがある。大人でも、自分がよく知っているスポーツでない場合には、意味のよく分からない用語も当然ある。子どもたちはなおさらである。その専門用語のすべてを理解しなければ、本文の意図は伝えられない、などということはないと思われるが、子どもは、「わからない」という印象をだんだん積み重ねてくる虞がある。文字も多く行間もゆったりした構成の本は結構なのだが、少し上部か下部に注釈説明が入るようにし、イラストなどと共に、その用語の意味を簡潔に伝えることができないだろうか。それは、用語に限らず、一般的な語彙についても言える。「リハビリ」のような用語や、「葛藤」といった、小学生が通常出会わないような言葉について、意味を説明するという親切な措置はとることができなかっただろうか。
少なくとも、「技術」や「優勝」「夢」などにふりがなをしっかり打ってくれている配慮と、用語や言葉の意味について無関心を装っているのとが、釣り合わないように感じてならないのだ。フォアハンドなど、ちょっとイラストを載せると、子どもたちにたいそうよく分かりやすくなるに違いない。よほどそのスポーツに詳しい子でなければ読めないような読み物としてこれは出版されたのではないはずだ。挫折や困難の中から立ち上がる姿勢を見てもらいたいと子どもたちに開示されていく気持ちがあるように感じている。誰もがよく知る学校での出来事が物語になったというわけではないのだから、ふりがなもさることながら、ここへの配慮がぜひ欲しかった。
た
か
ぱ
ん
ワ
イ
ド
