『NHK100分de名著ブックス 星の王子さま』
水本弘文
NHK出版
\1000+
2013.11.
時折テキストを購入するが、放送時の発行であるため、雑誌のように時期的な色彩が濃いので、ここでご紹介することは殆どない。しかしこのテキストは、放送終了後に編集しなおいて、単行本として出版されることがある。
本書の内容は、2012年12月に放送されたものである。私はそのとき、テキストを購入していなかった。だが後に強い関心をもつことがあって、本書を探したという事情である。放送テキストには含まれなかった最後の章が加えられており、そこがまたよかった。このように少し手を加えて、放送テキストを買った人にも、購買欲を掻き立たせるような意味合いもあるのだろうか、と無粋なことも考えた。
それはそうと、この名著を紹介するシリーズは、その名著そのものを読んだ人には深く味わう機会を与え、未読の人には、読み方を教えてくれ、直にその本を読むように導いてくれるものとして、多彩な効果をもたらしてくれているように思う。サン=テグジュペリの『星の王子さま』は、比較的短い物語でもあるため、多くの人がお読みになっているものだろうとは思われる。が、不思議な感覚に苛まれるのではないだろうか。王子にしろパイロットにしろ、ちぐはぐな対話が続き、思わせぶりな言葉があるものの、何を意図しているのか、容易には分からないからである。
これは子ども向きの本なのだろうか。基本的に、大人向けの本だと言われているが、大人であればますます、理解しようとするがために、よけいに分からない気持ちを抱えながら読み進まなければならないかもしれない。それとも、何とか別の言葉で説明しなければならない、などと下手に思うからこそ、そこが元凶となって、感じることを妨げているのだろうか。
だとすると、それを説き明かそうとするかのような、この本自体が、無粋なことをしていることになりはしないだろうか。本当は、読者一人ひとりがこの不条理な物語に中に引き込まれて、そこで王子体験をする、ということこそが望ましいものなのではないだろうか。
そのような逆説めいたものを心に思い浮かべながら、それでも本書の意義を十分称えながら、もう少しだけ歩いて行こうかと思う。
もちろん『星の王子さま』で一番知られた言葉というと、「大事なことは目に見えない」という辺りだろう。これを、絵本についてよく知る人であっても、王子さまの言葉だと思ってしまっていることがあったのを見たが、キツネの言葉である。キツネは、この物語でそうとう重要な位置にいる。私はとても好きだ。王子さまにはなれないが、キツネにはなれそうな気がするのだ。
本編のストーリーをここで明らかにするつもりはないので、本書の特徴である最後に付加された章だけに光を当てよう。そこでは、「死」というテーマが扱われる。そこに「愛」を重ねることは、多くの人がするだろう。だが、「友だち」ということも大いに関与するのだということを、読者は迫られるのではないかと思う。すでに『星の王子さま』のご紹介にて私が特筆したが、「飼いならす」とか「ひまつぶし」とかいう言葉に私は特に着目したのであった。それらも、どこか「死」へと行き着く人生を見据えた中で、捉えていくべきものなのだろうか、というように私には思わされたのであった。
著者はこれを、「遠近法」という概念で最後に捉えようとしている。少しハイデッガーが入ってくるような雰囲気もするが、ひとつの概念は、「概念」という西洋語における構造のように、「把握する」ことを可能にする。人生をそのように把握することは、ひとつの方法として非常に役立つものであるだろうとは思う。しかし同時に、その方法で捉えようとしてしまうと、逆に見えなくなってしまうものもあるだろうことを、私は懸念する。
そしてさらに、そのようにして見えなくなってしまうものが、実は「大切なこと」である、というように受け止めることも、私たち一人ひとりに課せられているようにも思えてくることだろう。こうして、サン=テグジュペリ自身も気づかなかったようなところにまで、読者が連れて行かれるということ、そこに、文学の醍醐味があるのではないか、というふうにも思わされるのである。