本

『ネコを撮る』

ホンとの本

『ネコを撮る』
岩合光昭
朝日新書033
\7200+
2007.3.

 世界のネコを撮影している、あの岩合光昭さん直々の、企業秘密の公開書である。もちろん、素人に明かす程度のことである。また、ネコたちとの交わりのエピソードを楽しく語ってくれるという、よもやま話というところであるのかもしれない。
 伝わるのは、ネコへの愛。だから、同じようにネコを愛する読者にならば、すべてが分かる。すべてが肯定できる。ネコのファンへのうれしいメッセージとなる。
 冒頭のカラー写真の数々に、まず魅了される。だが、これまでも写真集やテレビなどでよく馴染んでいる人には、見飽きたものになるのだろうか。いや、たぶんそんなことはない。そしてここは、「写真」としての意味を知るべきである。それは、ネコの毛の色と背景の色とをコーディネートさせている、という説明である。同系色だけがよいとは限らない。背景をどの程度使うか、切り取るか、それは画面に残る色としてどうなのか、という点を意識しなければできないことなのだ。
 私も写真を趣味としてきた。高価な機材をもっているわけではない。フィルムの時代には、さほど贅沢に撮影できたわけではない。デジカメの時代になって、数は多く撮れるようになった。しかしフィルムの時代には一応一眼レフを使っていたし、マクロレンズは必須だったし、望遠も暗いものだが使っていた。その他、カメラについての知識はひととおり取り入れた。撮影の基本についても、カメラ雑誌をかなり読み、実践もしてみた。
 だから、素人向けに書いた本書の説明は、よく分かる。また、自分がネコに対してとっていた撮影の姿勢というのは、間違っていなかったということも感じて、うれしかった。
 そう、まずネコと友だちにならねばならないのだ。ネコにしてみれば、敵かもしれない相手である。自分が命を落とす可能性を常にもちながら、こちらを見ている。警戒心があるのが当たり前である。そう簡単に信頼してもらえるはずがない。そこへ、近づく。距離でなくても、心理的に近づく必要がある。そうしないと、被写体として写させてもらえないのである。
 その点、テレビで紹介される岩合さんの様子は、感動する。外国で、初めて出会うようなネコに、すぐに信頼してもらっているのだ。否、もしかすると数日かかっての様子を流しているのかもしれないが、それにしても、確かにネコとの信頼関係を感じる。
 ところで、フィルムでは1日に300枚台くらいと書いてあるところがあり、驚いた。私は1、2時間で200枚平均くらい撮る。技術もシャッターチャンスも次元が異なるが、枚数からすると、プロは下手な鉄砲を撃ちまくっているのではないようなのだ。むしろデジカメだと、帰宅してからの編集や選択などの手間が多くかかると敬遠する向きがあるのだともいう。やはりプロの思いは深い。
 本文が始まってからは、章の合間などに写真がまた並べられるのであるが、さすがにコストの意味からも白黒になっている。一口コメントがまたおしゃれだし、温かい。それらの写真は、画面の中にネコが小さく写っているものが少なくない。背景の中でのネコの物語がそこに語られているのだ。私もその方法は使う。が、少数である。私はSNSの「画像」に使うために撮影している心理もあるので、どうしてもネコはそれなりに載せたいのだ。但し、聖書の言葉を記すために、ネコは中央に置かず、ネコに文字がかからないようにとの配慮から画を決めている。用途からも、どのような写真にするかを考える意味があるような気もするのだ。
 ネコにスプレー(おしっこ)をかけられた話があった。私は幸い、かけられたことはない。岩合さんは、機材にダメージをくらうこともあったというが、かけられることをむしろ誇らしげに語っていた。ああ、これがネコに信頼される理由なんだ、と理解した。
 何度も繰り返されていたが、ネコはオスの方が写真になるという。あるいは、メスはリラックスして撮影させてくれないのだという。確かに子ネコをもつ母ネコはピリピリしていることだろう。ただ、私は地域猫に囲まれている。TNRにより子どもをつくれないようにしているネコたちである。そこへ行くと、ピリピリしたメスはいないし、やけに活発なメスもいる。オスたちもけっこうおっとりして、荒々しい感じはない。そこはまた、岩合さんの見ている風景とは違うのかもしれない、と思った。
 最後のほうで、プロとアマチュアの違いが述べられていた。動物が突然動き出すからシャッターチャンスを捉えられない、と素人は言うだろうが、違うのだ。動物を見ているか。見ていれば、これからどうするか、分かることができる。それを構える。ときには、ピントを予め動くそちらの距離に合わせておいて、待ち受けて撮る。
 私はもちろんプロではないが、これは自分でもやっていたと思う。動物との信頼関係が第一とする中では、たぶんこういう考えをすることが当然だろう。ただ、頭で分かっていても、チャンスを的確にものにできないのが、私がしょせんずぶの素人であることの証拠であることは確かだ。
 最後の最後まで、このネコとの関係を大切にしていることを、岩合さんは訴えていた。本書が温かいのは、そういうせいであるのかもしれない。




Takapan
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