本

『猫に言いたいたくさんのこと』

ホンとの本

『猫に言いたいたくさんのこと』
野澤延行
池田書店
\900+
2012.11.

 私は、続編である「もっと……」のほうから先に読んでしまった。だが、著者も違うし、続編がどうだということは意識しないで読むことができた。こちらは、野澤クリニック院長である。表紙には「著者」と書いてあるが、「もっと……」のほうの著者については、「監修」と付せられている。きっと実情が少しばかり違うのだろう。ただ、読み手としては、さほどそうした違いを意識することもなかった。
 やはり、こちらの最初のもののほうが、より基本的なことが多いようにも見える。だからもし、読者が、どちらを先に読めばよいか、と悩んだとしたら、こちらが先でよいのではないかと思う。
 猫と付き合うための、基本的に必要な姿勢や、ものの見方のようなものが、エッセイの中で分かる。決して、ハウツーものではない。だから、さあ飼うぞ、という人が調べるようなマニュアルにはなっていない。だが、しばらく付き合って暮らしていくと、そういうことなんだ、と喉にストンと落ちるようなことが、いくらでも並んでいる。だから、やはりこれはエッセイとして、愉しむべきものなのだろうと思う。
 しかし、プロローグにあるように「思わずこぼれるネコへのひとこと」が、本編でも次々と並んでいるというのは確かで、思わず猫に向かって口に出してしまうような言葉が、それぞれの項目の見出しになっているのは、この第一弾がその形をつくったのだということが、よく分かる。
 ただ、時折箸休めのような企画があり、「萌えパーツ図鑑」として、肉球や目、尻尾など、それぞれの部分について特化した叙述があるのは、猫好きとしてはたまらない魅力のある文章となっている。
 よく、人間のことを「下僕」と見下す猫の様子がマンガや絵本などにもなっているが、果たして真実はもちろん分からないにしても、親子のような関係の中に、人間を置きたいというのは確かなのだろう。問題は、どちらが親か、ということである。猫のほうがイニシアチブをとる場合もあろうかと思う。否、基本的にそうなのかもしれない。それでいて、甘えるというのは、猫の側が子どもになっているのも事実であろうし、こうなると、固定的な関係ではないとも言えよう。但し、そこには深い絆とでも言うべきであろう「関係」が成り立っているという点は、確認しておいてよいかと思う。
 終章では、「愛すべき迷惑行為」が並んでいる。爪とぎもそうだし、パソコンのキーボードに居座る猫など、作家の飼い猫を紹介するテレビ番組でよく見かける。本当にそんなふうに仕事の邪魔をするのだろう、とも思ったが、それにはちゃんと訳があるのだった。一種の「かまってほしい」ということでもあるだろうし、他のものに自分のいるべき位置が奪われるのがたまらなく嫌なのだろう。
 ただ、「無言の抗議活動中」というのが、可笑しくて、また切なかった。猫の反抗や抵抗の中には、無言でただ背中を見せているだけのものがあるのだという。へたにしつこくかまって嫌われるのも嫌なのか。プライドが許さないのか。ただ背中を見せて、じっとしている。それが「抗議」なのだそうだ。
 これで猫好きとしては、十分納得できる。だが、私は偶々続編のほうを先に見た。そうか、続編は、ここに書き落とした重大な視点を、ちゃんと補ってくれたのだ。そう気づかされた。どうぞ本編のこちらからお読み戴きたい。だが、ぜひ続編の「もっと……」のほうも、きっとお読み戴きたい。猫を愛することとは、どういうことなのか、噛みしめることになるはずである。




Takapan
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