『言の葉摘み』
宮沢和史
新潮社
\1470
2006.8
ロックバンド THE BOOM のボーカリスト。興味のない方にはさほど響かないかもしれないが、心にグッとくる人も少なくない。
やはり、あの「島唄」であろうか。私の愛する曲のひとつである。
1993年にリリース。「島唄よ風に乗り 鳥とともに海を渡れ……」という、沖縄の音楽をイメージした曲は、南米でも大ヒットし、2002のFIFAワールドカップでアルゼンチンの公式サポートソングとして用いられたことも、記憶に新しい。
宮沢氏自身、沖縄出身ではない。だが、私がやはり沖縄に魂がどっぷり浸かっていたのと近い時代に、彼も沖縄に触れた。そして、悲しいその歴史を、唄にした。
小説新潮に連載された、彼の音楽や人生に対する随筆を集めたこの本の中にも、島唄のことが何度か登場する。はっきりと、集団自決がこの唄の現場だということが記されていて、やっぱりそうなんだ、という思いを強くした。
読んでいて思うのは、文章がうまいということだ。海外の人々と触れあうときの様子が、手に取るように伝わってくる。その息づかいまでもが、文字の間から押し寄せてくる。不思議な魅力がある。それは、最初のエッセイで、歌というものが、余地を残しておかなければならない、ということを指摘しているあたりで、すでに輝いていた。
いやはや、ほんとうに魅力のある本である。読み応えがある。しかも、たぶん誰にでも読める。
宮沢和史氏は、新垣勉さんのためにも、2005年に「白百合の花が咲く頃」という曲を提供している。「さとうきび畑」を歌う新垣さんへの、アンサーソングなのだという。まさに沖縄で痛めつけられ、沖縄の怨の中から神に希望を見出した新垣さんの天性の歌声の中に、宮沢氏を惹きつけてやまない沖縄の中の真実の部分を、見つけたのだろう。
世界を歌い歩いてきた著者の体験が、文章に、かけがえのない風の匂いをもたらしている。