『ここがおかしい!? 日本人の栄養の常識』
柴田博
技術評論社
\1659
2007.5
あるある大事典は崩壊し、おもいっきりテレビでも健康食品を題材に取り上げることがなくなってきた。栄養や健康について、軽々しく放送することが、問題視されるようになってきた。
まさかそんなことで健康が……と思う私たちだが、コレステロールが高いのはいけない、というのは、そのまま信奉しているところがある。逆に、低くしなければ、という思いが強くなるのが通常である。もちろん、善玉や悪玉などとも言い始めたが、依然として、善と悪とに二分してしまうのが私たちである。
その後、リノール酸がよいとか、ポリフェノールは万能だとか、イソフラボンがどうとか、たいてい、新しい製品販売と重ね合わされて、人の口に上るものである。
著者は、長年の研究調査から、そうした安易な食品の善悪決定に疑問を差し挟んでいる。そればかりか、とくに若い女性の間の栄養不足に、大変な問題があると警告を投げかけている。
結局、バランスよく食事を摂るということに、すべてがかかっていると著者は言う。
さまざまなデータを上手に用いている。また、そのときにデータを扱う上で注意しなければならない点も指摘している。それは、定点観測でなくなったにも拘わらず、数値がそのまま使われていることで、誤解されやすい資料となっている場合がある、ということである。ごはんの加工品におにぎりを入れた年から、爆発的にごはんとその加工品の消費量が伸びている。これは、もちろん急に米を日本人が食べるようになったからではないのである。
アンケートにしろ調査にしろ、そういういぶかしさはつきまとう。だからまた、この本が「データでわかる本当に正しい栄養の科学」と銘打ってあるのも、本当は割り引かないといけないのかもしれない。このデータもまた、様々な事情の中で、誤解を招くものとして提示されているかもしれないのである。
そして、データで導いた後にも、「これは恐らく〜によるものと思われる」とよく述べられているが、これこそ何のデータの裏打ちもない、推測に過ぎないものである可能性がある。ここを注意して読み進まなければならない。データは、あくまでデータなのである。それに意味づけや解釈を行うのは、各主体なのである。
索引が最後に掲載されている点は評価できる。食の安全や健康については、判断が非常に難しい。自分で責任をとって自分の生き方を決める分には差し支えないのだが、人に勧めるあるいは禁ずるという行為をとるとなると、別種の責任が伴う。
多くのプロの調査と意見がこのように公的にされ、それをよく判断材料として、私たちも自分の生き方を決めていきたいものだと思う。