◆優先座席 JRの車内での話。 母親と娘とが乗車してきた。娘さんのほうは、もう二十歳くらいを数えるくらいだと思うが、ダウン症であるらしかった。 向かい合う4人掛けの座席が並ぶ車内で、ところどころは空いていた。ただ、四つとも空いているところは殆どなかった。私の近くのその席は、ちょうど降りた人がいて、四つとも空いたのだったが、当然その母親の目にも、それがとまり、そこに座ろうと向かっていたのは明らかだった。 と、母親は、突然手すりをはたくようにして体の向きを変え、奥の別の席を探しに進んだ。後ろから従ってきた娘さんも、同じように方向転換して、その空いた席に座らず、母親の後をついていった。 夏の陽射しを避けて、そこにはブラインドが降ろされていたが、そのブラインドから透けて、優先座席のマークが見えた。 私の心に、爽やかな風が吹いてきた。 優先座席でも構わず、向かいの席に靴のままでんと足を載せ、横の席にカバンを置き、携帯電話の操作(メールやゲームをしているからやっていいというわけではない、という感覚は彼らにはない)をしているために横に立っているお年寄りにも気づかないでいいんだ、というふうな顔をしている大人(学生もいるが、たちの悪いのはたいてい大人である)をしばしば見て悲しんでいる心の中に。 |