◆野球を愛する人々

 2004年シーズン当初は、安打数も伸びなかった。アメリカの『シアトル・ポスト・インテリジェンサー』は、イチローを非難した。
 だが、中途から後半、イチローのヒット数は爆発的に増えた。低迷するチーム事情とは裏腹に、孤軍奮闘とも言えるほどに、ひたすら求道者イチローは、ヒットを打ち続けた。ついに、かつてイチローを非難したコラムニストも、8月末、紙上で謝罪した。
 なかなかできないことである。言い放つばかりで責任を取らない向きのある新聞紙上で、明確に、済まなかったと謝る。そして、改めてイチローをほめたたえる。
 大リーグの安打数最高記録が期待された9月初め、1試合に5打数5安打を放ったことがあった。
 相手投手バーリーは、2本打たれた後、攻め方を変えたが、10球粘られた後に意表をついたサイドからのスローカーブを投げたが、ヒットされた。捕手デービスは、もう投げる球がない、と嘆いた。4打席目にも打たれた投手は、イチローに向かって帽子を取って、敬意を表した。もう降参だというサインだった。
 九回の第5打席でもライト前にヒットを放ったとき、観客が立ち上がって拍手した。いわゆるスタンディング・オベーションというものだった。――ここはイチローにとっては敵地。アメリカでは地元チーム贔屓のため、いかに有名選手であっても相手チームの選手にはブーイングも絶えない。とくにこの相手、ホワイトソックスのファンはその傾向が強いという。
 日本でも、相手チームの選手の記録達成には惜しみなく拍手を贈る。だが、この日のイチローは記録というわけではない。ファンは、野球選手としてのただその見事なプレイに感動したのだ。
 野球が好きなファンが球場に集まっているし、そうしたファンは日本にも沢山いる。そんな野球ファンが、リーグ制の変更に算盤を弾いて混乱させているオーナーたちに抵抗している。パ・リーグ消滅や2リーグ制に対して、選手共々、反対しているのだ。
 アテネでのオリンピックは、野球へのひたむきなプレイを見せてくれた。選手たち数人は、シーズンに戻ることができないほど、全力を尽くし、傷ついた。
 イチローが日本にいないから、日本の野球がつまらない、などとファンは考えていない。たとえ、オーナーたちが考えていたとしても。ファンは皆、野球が大好きなのだ。となれば、パ・リーグの熱意ある試合に、もっとお近くの方は足を運んで戴きたい。それもまた、ファンとしての証しとなるだろう。
つぶやきの カ・ケ・ラ


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