◆笑えないお笑い芸人

 最初にその芸人を見たとき、背筋が寒くなり、全然笑えなかった。
 その後、その人は人気が出てきて、すっかりメジャーになった。偶々何かのテレビでその人を見ることがあったが、やはり一度として笑う気にはなれなかった。
 どうしてだか、自分で説明がつかなかったのだが、ふと気づいたことがあった。
 従来の「お笑い芸」は、芸人が、自分をアホに見せて、観客より下なのだという暴露をすることによって、笑いをとるタイプが多かった。観客も、心から芸人を見下しているのではないにしても、自分のことをアホに見せるというルールを解して、心おきなく笑い転げていた。いわゆる「ボケ」の芸である。
 私が笑えなかったその芸人は、専ら他人の悪口のようなものを叫び続けていた。しかも、その場にいない芸能人のことを小馬鹿にするようなものを断片的に繰り返した。
 なかなか人が言わないことをズバリと口に出すことがいいと感じる人がいるかもしれない。従来の笑いの基本を破ったところに面白さがあると評価する人がいるかもしれない。しかし、私はどうにも笑えず、不愉快な寒い思いしか沸いてこないのだった。
 なにも、その芸人だけではない。近頃はお笑いブームだともいうが、中には、同様のものが少なくない。断片的なコントで、その場にいない誰かのことを嘲笑う内容である。
 芸人だけが問題だとは思わない。それを「笑い」として受け容れている世の中に、違和感を覚えてならない。いや、はっきり言うと「怖い」のだ。
 従来の笑いには、芸人と観客との心の疎通あるいは交わりのようなものがあった。しかし他人を笑いの種にする笑いには、排除することをユーモアと勘違いしているのではないか、という気がしてならないのである。
つぶやきの カ・ケ・ラ


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