◆レシートいいですか?

 レジでの言葉が話題になることがある。
「千円からお預かりします」が生理的に受け付けられないのは、私もそうである。そしてこの表現は、マスコミを含めた各方面で取りあげられて、すっかり有名になった。それでもなお、コンビニなどでは「千円から」を聞くというのだから、もうこれは世の中が、正義などによっては動いていないという、明確な証拠である。
 ところが、私が複数回出会った、奇妙な言葉は、あまり世間で騒がれていない。
「レシートいいですか?」
 コンビニや百均などで、支払いを済ませた後、レジスターがレシートをプリントアウトしたのを見ながら、店員がこう言うのである。
 たとえば今日のダイソーでだと、私は、すでに105円を支払い、商品も受けとったが、少しも去ろうとする意志を表さず、レシートをもらおうという態度で待ち構えていた。だが、店員はレシートが印刷されてくるのを手で拾いながら、「レシートいいですか」と言う。さすがに私は疑念の顔を示したが、抗議の意味で、口でうだうだ説明することはしなかった。店員は、なんなんだという顔をしながらも、最終的には私にレシートを渡した。  こう読んできて、どうして店員に抗議するのだと思った方がいたとすれば、私はその方にも問いかけたい。
 レシートは、客に渡すのが当然ではないのだろうか。
 たとえば客である私が、「レシートはいりません」と言ったとか、レシートを受けとる意志を示さずにその場を去ろうとしたとか、そういう場合には、「レシートいいですか?」の質問は意味をなす。だが、私がそんなことを言わず、明らかにレシートをもらうほかに用事がないのにその場に止まってレシートが打ち出されているところに視線を送っている場合には、その質問は、まったく意味をなさない。店員の独り言ではあっても、客への言葉としては無意味である。
 どうしてこんな言葉を店員は口にするのであろうか。
 理由は分からないが、ひとつ推測してみた。たしかに、レシート不要とする客は少なくないのだろう。若い人に限らず、いったいこの人は家計簿をつけているのだろうかという疑問をもつような人は、数多い。それは認める。そこで、レシートを渡そうとしても断られることがあるが、店員としては、レシートを最初から渡さないということはできない。そこで、たぶんレシートなんか要らないだろうけれども一応声をかけておかなければいけないのではないか、という配慮をしているつもりで、客の様子を見ることもなしに、気遣いの言葉「レシートいいですか?」と口にしてみるのではないか。それは、疑問文ではなくて、「レシート要りませんよね」という程度の意味で、店員自身としては一刻も早く次の客の処理をしたいけれども、レシートのこともちゃんと気にしてわざわざ尋ねているのですよ、という証拠を示すために、尋ねているのではないか。
 疑問文ではないという証拠をひとつ示そう。私は、「レシートいいですか?」と呟きながら、目の前で私のためのレシートを、ぐにゅと握りつぶされて捨てられてしまったことが、複数回ある。その後店員は、私がレシートを求めていることを口にするのを聞いて、明らかに「しまった!」という顔をして、くしゃくしゃになったレシートの皺を伸ばそうと苦慮しているのであった。
「千円から……」と言うのも、客への配慮のつもりらしいという。何かしら気を遣わないといけないと思いつつ、実は何の配慮も考えていないという事実。人を見て行動するのでなく、自分の内部での勝手な配慮と言わざるをえないが、こういう姿勢は、たんにレジがどうのということでは済まないような気がしてならない。
つぶやきの カ・ケ・ラ


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