◆おむすびと祭日 幼児番組で、これは何でしょう、と子どもたちに当てさせる。子どもたちは声を合わせて叫ぶ。「おにぎり!」 興味深くその声を聞いた。「おむすび」と言う子がいなかったのだ。はて、今の子にとっては、「おにぎり」であって、「おむすび」ではないのだろうか。 指している実体は同じである。だが、「おむすび」の方には特別な意味がこめられているという。いわゆる女房言葉であるとも言われるが、『古事記』に由来する、宗教的な意味があると考えるのが通常である。※ 日本神話やアニミズムに由来し、その呪術的性格をこめて使われている言葉が「おむすび」である。だから私は、「おにぎり」と呼ぶ。小さな子どもたちが「おにぎり」と叫んだことは喜ばしいと思う。 話は変わるが、「祝日」と「祭日」も曖昧に使われていることが多い言葉である。看板には依然として「祭日」などと書いてある。 現行法には「祝日」とはあるが、「祭日」とは記されていない。「祭日」は、大日本帝国憲法における「皇室の祭典を行なう日」のことである。天皇家の祭のための日であるという意味だから、私たちが用いるのは不適切である。逆に言うと、国粋主義者は好んで「祭日」と使いたいのだろう。 こうして「祭日」には神道的な意味が入ってくるものだから、私は「祭日」という言い方もしない。 あまりナーバスになるのも問題である。日常紛れ込んでいる仏教用語あるいは仏教由来の言葉を排除することなど不可能なので、日本語自体が使えなくなる。だが、十分言い換えられるこのような場合には、わざわざ「おむすび」「祭日」を使う必要はないと考えている。 |