◆苦い薬

 五角形に折られたパラフィン紙を解き、V字谷に集まった粉薬を、舌の上に落とす。舌の上に苦い味を感じる部分があることは、小さいときから経験的に知っていた。それを超えた奥に、流し込め……。
 昔の薬は苦かった。まさに、「苦い薬」という言葉の通りだ。言うこときかないとひまし油を呑ませるぞ、という脅しは実に迫力があった。
 こんな薬を呑まされるくらいなら、もう絶対熱なんか出さないぞ、とその都度決意するのだったが、残念ながらその意志とは関係なしに、発熱した。偏食で体力がなく、月に一度は高熱を出していた私は、こうして苦い薬とつきあい続けた。
 そのうち、オブラートなるものを知った。これは福音だった。
 その後、カプセルが多くなったり、糖衣状のものが現れたりして、薬の世界はすっかり呑みやすくなった。子ども用には、とくに「おいしい」ものが普通となった。
 苦さのある「胃散」や「葛根湯」などは、嫌われるようになった。
 苦い薬が流行らなくなった。
 人生においても「苦い薬」が必要ないかのような錯覚に、私たちはごまかされてはいないだろうか。
つぶやきの カ・ケ・ラ


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