◆仲間

 トムとジェリー。福岡では、昔夕方に何度も何度も再放送されていた。
 トムが仲間のネコと二人がかりで、ようやくジェリーを捕まえた。獲物を半分ずつにしようと、トムの相手のネコが、切り株の上でジェリーの頭と足を押さえている。トムが斧を持たされて、今からジェリーをまっぷたつにしようとする。
 斧を振り上げたトムの肩に、悪魔が登場する。「本当に半分分けをするつもりか?」獲物は独り占めする方法があるのではないか。
 悪魔は、ジェリーを押さえるその仲間の頭に、目印をつける。「そこだ、あそこよく狙うんだ」
 トムは振りかぶり、その仲間のネコの頭上に斧をさし向ける……しかし、良心の呵責からかブレーキがかかり、トムはハアハアと肩で息をする。
 この後、思い切って斧を振り下ろすが、刃が柄から抜けており、柄だけが相手の頭を直撃する、という具合になる。それで、たんこぶができて、仲間割れが起こってしまうのだ。
 トムは、仲間を殺して獲物を独り占めしようという悪魔の誘いを受けた。しかし、全うできなかった。ジェリーを切り裂くことはしたいと思っていたのたが、仲間を殺すことはできなかった。
 なぜだろうか。
 戦争は、仲間を大切にする。家族のため、友人のためと称して、それを守るために戦うのだと説明される。その一方で、極めて当然のことではあるが、敵を倒すことが絶対服従の条件となる。
 戦争は、敵を「人間」だとは考えないようにし向ける。人間であれば、殺すことができない、ということもあるだろう。だから、敵は人間ではなく、動物的であったり、鬼畜であったりする。敵は人だと考えてはならないように、国から命令が下されていく。
 トムが、仲間のネコを攻撃できなかったのは、それが仲間であるからだ。同族と言ってもいい。
 しかし、戦争では、人を人として認めるような悠長なことは言っておられない。
 人を、人として認めることというのは、相当難しいことなのだという気がしてくる。
つぶやきの カ・ケ・ラ


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