◆安全を舐めている

 新幹線の運転手がメールを打っていたとして、話題に上ったことがある。
 もちろん、危険につながる行為ではあろうが、新幹線の場合は、基本的に機械がコントロールしているので、差し迫った危険があったわけではない。
 新幹線のケースくらいで驚くには当たらない。町中を走る車のドライバーを見たまえ。携帯電話で話しながら運転している者の、いかに多いことか。ともあれ自動制御装置の働いている新幹線の比ではない。こちらのほうがよほど危険であることは、火を見るより明らかである。
 自転車やバイクを運転しながらケータイを見ている、あるいはメールを打っているケースも見かける。歩きながらする人間はもう数えるのがばからしいくらい多すぎる。「ぶつかりたくなければおまえのほうがどけ、私はケータイをしながら真っ直ぐ歩いているだけだから」と、傍若無人に突っこんでくる歩行者を避けるために、ケータイをしながら歩かない人々は、町の歩道では左右にしきりに避けながら進まなければならない。
 ケータイばかりでなく、車を運転しながら、ハンドルに置いたマンガ雑誌などを読んでいる例を、私は三度見かけた(一度はハードカバーの文学全集風の小説であった)。一度は、轢かれそうになった。赤信号を無視して突っこんできたのである。
 もし事故を起こした場合、「マンガを読んでいたので信号無視をしました」と、ドライバーは証言するだろうか。賭けてもいい。そんなことは必ず隠す。「ケータイをしていたので気づくのが遅れました」と言うだろうか。そんなことは言うはずがない。「急に飛び出してきたので避けきれず……」と、亡くなった歩行者に責任があるかのごとくに言うに決まっている。マンガもケータイも、申告しなければ基本的に隠し通せるものだからである。
 数字に表れているより、はるかに多くの事例が、ケータイやマンガなどに関係していると思う。
 安全を舐めているとしか言いようがない。
つぶやきの カ・ケ・ラ


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