世界は100人だろうか
2002年2月17日

『世界がもし百人の村だったら』という本が話題になりました。
 インターネット(Eメール)を通じて広がり受け入れられていったこの本について、紹介する必要はほとんどいらないほど、もう有名になってしまいました。
 もし、現在の人類統計比率をきちんと盛り込んで、全世界を100人の村に縮小するとどういう数字になるか、を淡々と述べるだけで、世界の置かれた状況を分かりやすく想像できるというものです。
 中学生の先生が、生徒に理解しやすいように考えた案が世界中を駆けめぐり、ここに翻訳家の池田香代子さんの手により、信頼できる数字として日本語訳の本が提示されたというわけです。

6人が全世界の富の59%を所有し、
その6人ともがアメリカ国籍

 端を発したのがアメリカとあって、こうした観点がなされています。それは、自分たちがいかに贅沢な、裕福な生活を送っているか、ということの自覚のためであったと思われます。
 統計がパーセントで語るところを、さらに「もしも世界が100人だったら」としているところが、わかりやすさのポイントだったことでしょう。慧眼であると思います。また、こうしていかに自分が恵まれた環境にあるかを知ることによって、物事に感謝し、人を愛するべきだとする観点も、実に教育的で、中学生を動かすのに適しているかも、たかぱんは理解できます。この本の成り立ちについては、なんら文句をつけるつもりもありません。まことに、教育的教材としてはすぐれていると言うほかありません。

 でもたかぱんは、受け取る私たちおとながすべて、この本を読んで単に喜んでばかりでいいのか、と疑問を感じます。

 この本をそもそも読むことができるというだけで、その人はすでに、生活が守られ、教育を受けており、また物品に囲まれた、この本が告げているとおり「裕福で恵まれています」。メールで飛び交ったこのたとえ自体、1%しかいないとされる、コンピュータを所有する人の手によって初めて、考えられ、広まっていったのです。
 2月15日に、感動的に取り上げた「西日本新聞」にしても、また、たかぱんがネットで少しばかり検索して開いてみたサイトの中でも、この物語は絶賛されてばかりでした。でも、繰り返しますが、この物語に感動しているのは、しょせん、100人の村の中の恵まれた1人に過ぎません。
 ここにあるのは、豊かな生活を送る人間が、その豊かさに感謝する、というだけのストーリーでしかないような気がします。となれば、おとながすべて、この本に酔いしれていてよいとは、思えないのです。

『少女パレアナ』を題材としたアニメ『ポリアンナ物語』という番組がありました。主人公は、今は亡き牧師のお父さんが遺してくれた遊び「よかったさがし」をします。どんなに不幸な状況でも、必ず「よかった」と言えることがある、と。しかしそのあまり、人の不幸を探してばかりの日々となり、少女が自分を、より不幸な人と比べ続けるようになったため、戒められるというシーンがあったように記憶しています。

80人は標準以下の居住環境に住み
70人は文字が読めません

50人は栄養失調に苦しみ
1人が瀕死の状態にあり
1人はいま、生まれようとしています

 おとなが、この本で、「自分はよかった」と胸をなで下ろす罠に、落ち込まないように……。

 そして、たかぱんが、どうしてもこの本になじめなかった最大の理由は、次の点にあります。
 やはり、世界は100人ではない、ということ。
「1人が瀕死の状態に」あるとありますが、たかぱんの貧しい想像力では、これはしょせん「1人」にしか聞こえないのです。「たった1人」にしか。
 いいえ。瀕死の状態にあるのは、6000万人なのではありませんか。自分を1人、恋人を1人、友達を、子どもを、すべて1人、1人……と数えたうえで、6000万に届いたときに、それらすべてが瀕死だというのではありませんか。1人1人が重たく思える中で、やっと6000万までたどりついたときに、いかに多くの人が苦しんでいるのか、と心が苦しくなる、それが、たかぱんの感じ方です。
 自分が、恵まれた1人であると感じて、感謝することは、それ自体悪いことではありません。しかし、瀕死の6000万人のことを「1人」と呼んではならない、と、たかぱんは考えています。1人1人の苦しみが、たくさんたくさんあるのですから。

 感受性が強く、想像力たくましい中学生だからこそ、パーセンテージでのたとえが伝わるのかもしれません。教材としては、その意味でも実にすぐれています。しかし、おとなは違います。少なくとも、たかぱんは、苦しんでいる人が「1人」では、その重さを受け止めることができないのです。
 数が多ければよくて、少ないなら仕方がない……そんな論理に踊らされている、想像力の衰えた、おとなの中の「ひとり」として。


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