僕の生きる道
2003年2月19日

 関西テレビ(フジテレビ)が、2003年冬、いいドラマを提供しています。『僕の生きる道』。
 SMAPの草なぎ剛さんというキャラクターも人気の秘密かもしれませんが、たぶん純粋に、そのテーマ、メッセージという点で、このドラマは群を抜いて、人々の心をつかんでいます。

 余命一年と宣告された、若い高校教師の男性(草なぎ扮する「秀雄」)の苦しみを、同僚のみどり先生(矢田亜希子)との愛の中で描くドラマです。
 その魅力は、こんな場で私がぐちゃぐちゃ述べても仕方がないものです。どうぞテレビを、あるいは後には再放送やビデオなどで見ることができるかもしれません。ぜひ、映画にもなってほしいと願っています。

 制作は関西テレビ。そのサイトには、番組紹介や掲示板があります。フジテレビのドラマのサイトより、見やすくて、親しみやすい感じがしました。
 その掲示板(BBS)を見ると、視聴者が、たんに俳優の好みやファッションで見ているのではないことが、よく分かります。誰もが、生き方について真剣に考えているのです。
 もしも自分だったら……。自分が家族を失ったときのこと……。看護師を目指しています……。とにかく泣きました……。皆、番組の伝えるものを、心の深いところで受け止めています。
 最初見たときには、ずいぶん重いドラマだな、と思いました。演技も地味で、よそよそしいせりふが淡々と続くばかり。こんな会話はしないよね、と思われるほど、丁寧な言葉遣い。音楽もほとんど流れず、カットも動きがない。――でもそれは、計算されてのことでした。草なぎさんがインタビューに答えているように、感情を出さないように演技指導されていたのです。でも、できた画像を見ると、その抑えた演技の中だからこそ、より感情が出てきている、と本人も認めていました。
 ほかの派手なドラマの評判が世間に広がるばかりで、このドラマはほとんど話題に上ることもなかったものですが、かけがえのないものを教えてくれるように感じています。
 残された限りある命の中で、自分はどう生きるか。
 見る者は、そのテーマに、必ず引き込まれます。
 なぜなら、それはすべての人にとって共通なテーマであるから。

 愛する女性との結婚をためらう秀雄に、担当医(これがまたいい味を出してる)が言います。「ある人がこう言った。『世界が明日破滅に向かおうとも、今日私はリンゴの木を植える』と」
 毎週毎週、光るせりふというのがあって、見る者の心にいくつものきらめく言葉がちりばめられているのがこのドラマのもう一つの特徴ですが(サイトには、WORDSコーナー――心に残ったコトバたち――というのもあります)、この言葉についてもまた、放送終了後早速書き込みが多くなされていました。
 ご存知のとおり、この言葉は、ルターによるとされており、神を信頼して希望を失わないこと、慌てずその日の業を平常のとおりに行うことを表しています。(このことを知っている方はネット上にも多かったのですが、はたしてルターが何の本でそう言っているのかは、書いてありません。何の本の、どこにこの言葉があるのかご存知の方、ぜひ教えてください。BBSで構いませんので。)
 そもそもこのドラマは、秀雄が小さなときに教会の音楽(讃美歌でなく児童合唱なのですが)に魅せられたこと、故郷に戻るときにその教会を訪ねていること、その教会(山奥の村に見事なカトリックの会堂があるという設定です)が物語の重要な場所とされています。
 きっと、クリスチャンか、聖書に理解の深い人が、制作に携わっているのでしょう――と想像してしまいます。

 あと一年の命ということを、同僚たちが知り始めます。
 今後、それがどう展開していくのか見守りたいと思いますが、私は必ずしも、秀雄に同情するとか、可哀相に思うとかいうことなしに、ドラマの中のユニークな場面に笑い声をたてながら見ています。不謹慎と言われるかもしれませんが、多くのユーモアを感じるからです。
 はたして、そこに登場する人物が、秀雄より長く生きるという保証が、どこにあるのでしょう。明日、いや今日死ぬかもしれないという点では、秀雄も他の人物も、そして視聴者も私も、何も変わらないではありませんか。
 第一、誰にでも必ず、「死」はやってくるのです。
 見る者は、自分の命もそうなのだということを、無意識のうちにも感じています。だからこそ、胸をうつのです。
 一つだけあり、一つしかない、かけがえのない「僕の生きる道」を。

 見事なカメラワークで落ち着いて見ることのできるこの『僕の生きる道』、お勧めです。
http://www.ktv.co.jp/good-die
ちなみにこのgood-dieというフォルダのネーミングがまた、いいでしょう?
ドラマのサブタイトルが "Have a good die" なんですね。


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