本

『直感でわかるおもしろ図形・幾何』

ホンとの本

『直感でわかるおもしろ図形・幾何』
吉田克明・中野潤
技術評論社
\1659
2007.12

 直感とかおもしろとかいう誘い文句に本を手にしてみる人もいるだろう。私は疑ってかかる。いや、面白くないという意味ではない。計算と理詰めでいくつものハードルを越えて論理を貫く数学の醍醐味とは違い、ちょっとしたひらめきだけで解決する、論理的なぞなぞ程度の本が、実に多いからだ。小学生相手にちょっとクイズを出すには適しているが、もう中学生には使えない。数遊びのようなものは、大人が、「学習クイズ」として楽しむ最近の悪趣味なテレビ番組の流れでしかないように感じられてならない。
 だが、この本は、使える。
 中学受験を目指す小学生のためにも、役立つ発想がある。しかしそれ以上に、これは高度な数学問題の解決を要求される、高校受験を目指す中学生のために実にすばらしい問題集となっているのだ。
 もちろん、図形の問題に限られる。だが、それはまさにユークリッド幾何学のレベルであり、中学卒業までに学ぶ知識や定理だけで語られているのである。高校独自の定理を駆使しなければ解けないという問題は、ここにはない。進学塾で全国の高校入試問題の数学に通じている者が言うのだから、間違いない。この本は、高校入試問題のための豊かな発想を助けてくれるのである。
 だから、円周角の定理や相似、三平方の定理や正多面体の知識などを巧みに使って解くようにできているのだが、通り一遍の発想では出てこないものが多い。中にはラングレーの問題も出て来るのであるが、それを実に分かりやすく解説してくれている点が大きい。難度の高い高校数学を目指す中学生は、ぜひ手にしてもらいたい。少なくとも図形について、出題の種も分かるし、一定の学習では越えられない壁を、いとも簡単に飛び越えることができるだろう。
 褒めすぎかもしれない。たしかに、一部の解答に、まどろっこしいところもある。私が解説をすれば、半分の頁で済む別解を書くのに、というところも、ないわけではない。しかし、概ね安心して読むことができる。
 図書館で借りて、私も適当に読み飛ばすつもりで手にした。しかし、これは解かないと損だと思い始め、殆どすべてきちんと解いた。もちろん、全部みっちり解いたのではない。半分以上は、頭の中で解く。それくらいでなければ、進学塾の講師は勤まらない。しかし、奇妙なルートの解答が一致すると、やはり快感が走る。
 ただ、タイトルにある「直感でわかる」というのは、本当だろうか、と思う。解説の頁に、みっちり三平方の定理や二次方程式が並んでいると、もはや直感などとは言えないのではないか、と私は感じる。「おもしろ」は、私は面白かったので、マル。さて、表紙にあるような「脳が活性化」というのは、数学にさほど興味のない方には、苦しい誘い文句であるような気もするのだが。




Takapan
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