本

『図解雑学 倫理』

ホンとの本

『図解雑学 倫理』
鷲田小彌太
ナツメ社
\1470
2005.2

 図解雑学シリーズは面白い。何かについて知りたいと思ったとき、手っ取り早く、その道の「通」の話を聞くことができる。妙に詳しいところまで知ってしまうものだから、蘊蓄を愛するような人には、何よりの題材である。
 たんなるハウツーではないか、と思われるかもしれないが、執筆陣は、かなり力のある人が担当していることが多く、表向きは易しい言い回しでも、背景には強力な知識が控えている可能性が高い。
 そういうわけで、今回「倫理」の話題である。本文の担当者も、ひとまず信頼がおける。
 従来、倫理と言うと、アリストテレスあたりに始まる、いわゆる倫理学の歴史を紹介することに終始していた観があるが、この本では、そうした哲学者はゲスト程度の位置しか占めていない。あくまでも、現代社会において、今生活しているこの私が出合う事柄について、善悪を考える際の糸口となる視点や考え方が、ふんだんに紹介されていると言ってよい。
 正義の問題、男と女、親子関係、生と死といったシビアな問題から、仕事とお金にまつわる考え方、環境問題と続いて幕を閉じる。
 著者の考え方は、至って常識的な見地を重んじるもので、原則に従った生き方を貫こうという強靱な意志は見られないようだ。それも一つである。まあこれでいいのではないか、という見解も、深い思索を盛り込んでおきながら、一般受けもしそうな言い回しであるかもしれない。
 惜しむらくは、問題提起にとどまらず、これこれがいい、という形で結論を提示してしまっているところが、それでいいのかとの思いを拭いきれない原因となっている。
 一般読者には、それでよいかもしれない。著者の意見がはっきり出されるから、賛同すれば喜んで最後まで読むだろうし、おかしいと思えば、疑問を懐に抱く気持ちで読み進むのかもしれない。しかし、「倫理」という問題を紹介していくとするなら、果たして、一定の結論を述べていくことでよかったのかどうか。結論が下せぬままに問い続けることを誠実とするか、一定の見解を断定して紹介することが誠実であるとするか、そここもまた、意見の分かれるところであるかもしれない。
 人間は、これで善いとか悪いとか、なかなか選び択ることができない運命にある、という意味での倫理は、この本では考慮されていないようだ。具体的な道徳内容のお誘いではあっても、やはり倫理について問うような本ではなかったということである。そこまで欲張ってはならないか。




Takapan
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