本

『絶滅危惧の動物事典』

ホンとの本

『絶滅危惧の動物事典』
川上洋一
東京堂出版
\3045
2008.12

 環境省の、いわゆる「レッドデータブック」には、絶滅危惧の生き物がまとめられ、警告を鳴らしている。
 なるほど、そうなのだ、とそれを見て感心している場合ではない。著者は、独自の立場から、個人的見解の部分もあることを告げた上で、同様のまとめを行った。
 たとえば、環境省の調査と発表において、はたして、政治的な不備や欠陥を、指摘していることが期待できるだろうか。特定の企業の影響があろうことを発表することがあるだろうか。どこにも緩衝が置かれている点は否めない。
 著者は、何もかもを自分でやろうとするものではなく、できるかぎり自分の得意な分野において、新たな調査結果を指摘しようとしている。また、徒に危機を煽るのが目的でもなく、従来の歴史を踏まえて、人間と動物たちとの関係を見つめ、築き直すことを模索しているようでもある。
 環境と生物との関係を概観した上で、一つ一つの動物について触れていく。日本のどこに生息しているか。その減少している主な原因は何であるか。そうした見出しと、写真ではなくイラストが掲げられた後に、様々な角度からの記述が続く。見開き2頁にまとめられているので、見易い構成になっているが、それだけに収められないような、愛情を感じとることができる。かなり厚い本であるから、相当数の動物に触れているのであるが、それぞれを大切に扱っていることがよく分かる。まるで、一人一人に人格を感じて尊重しているかのような取り扱いである。
 その動物の種類によって差はあるが、全体的に、「森林伐採」による減少がかなり多い。また、工事や開発によると書かれてあるものもかなりある。人間がどう自然に関わっていくかという問題をそこに感じざるをえない。
 この「人間」というのが、私たちは、ともすれば工事関係者であるとか、政治家であるとか、そういう「他人」であるとして捉えがちである。そうではない。私自身なのである。私が、紙を使うとき、私が木を使うとき、森林を伐採している。私がドライブするとき、工事を要求している。私が、最低限生きる以上の何か活動をするときに、こうした動物を追いやり、減らすことに加担している。この意識がない間は、どんなに何を調査者が訴えても、無力であるかもしれない。
 著者は、そういうところにまでは、熱く語ることをやっていない。どこまでも謙虚に、動物たちに寄り添うように立っているのである。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります