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『図解とあらすじでよくわかる「聖書」入門』

ホンとの本

『図解とあらすじでよくわかる「聖書」入門』
保坂俊司監修
光文社知恵の森文庫
\724+
2011.9.

 ちょっとしたキリスト教ブームが起こる前に作られた本だと思うが、こういうものは、売れる売れないとは関係なく、フェアに作られているかどうかか価値を決める。しかも、その価値は、キリスト教を知る人によるのでなければ判断がつかない。
 監修者がいて、この人はインド思想の専門家である。東洋哲学主体であり、キリスト教畑の人ではない。ただ、比較宗教学については領域をもっており、そういう意味でキリスト教の紹介のようなこの本についても監修を任されたのであろう。こういう場合執筆したのはこの監修者自身ではないのが一般である。とすれば、この執筆者が私には魅力である。
 というのは、この小さな文庫は、類書の中でも、かなり優れているのだ。聖書そのもののコンパクトな紹介としては、キリスト教出版社が伝道の目的もありつくるものと比しても、何ら劣るところがないばかりか、記述内容が非常に正確である。
 改めて表には出さないが、大手出版社がキリスト教世界の有名な教授を監修者に迎えても、内容が実に稚拙で、初歩的な誤りが多かったり、オカルト趣味に走っていつの間にか聖書やキリスト教の紹介から逸脱している、というような特集ムックも、私は見たことがあるからだ。
 そこへいくと、この文庫は秀でていることが、読めば読むほどに分かる。もちろん、誤りがひとつもない、などと言うつもりはないが、取り立てて見えてこないのは事実だ。視覚的な資料や地図についても役立つこと請け合いで、私はこれは毎週教会の礼拝に持って行けば、牧師の込み入った説教の理解のためにも実によく分かるのではないか、と思えてならないのだ。
 聖書を忠実にたどり、その概略をまとめているその記述も、かなり聖書を読み込み、その上見事にまとめてあると感服することが多々あったのだ。時折のコラムも、聖書というものについて抱かれやすい疑問が適切に解決されていくような書き方がなされている。つまりは、お役立ちの本である。また、教えられることの多い本である。
 時折、キリスト教の専門家ではない、あるいは時に自ら全く信仰などしていません、などと公言する人が、聖書や教会についての知識をまとめた本が世に出る。最近またその頻度が増しているように見える。やはり注意しないといけない。中には宗教学者と名乗る売れっ子の著述家が「キリスト教入門」なとというタイトルをつけながら、内容は聖書についての無知と偏見だけを並べ立てている、偽りの看板の本もあるのだ。まさに玉石混交という事態なのだが、今回のこの光文社知恵の森文庫、これはお買い得である。クリスチャンもまた、手元に常におき、あれは何だったか、と思う気にパッと開けば、たいていのことは解決しそうな内容なのである。
 教会の組織やキリスト教の歴史については期待できない。タイトルはそれを告げてはいない。あくまでも、聖書そのものについてである。だが、実に有用である。それでよいと思う。もちろん信仰のためには、聖書自体がどうしても必要である。聖書が中心でなければならない。だが、適切な道標や地図は、目的地までの旅を安全にスムーズに導く。この小さな文庫は、その道標として役に立つ。
 実はこの本、私がせっかく買って読んでいたら、古書店で格安に売っているのを先日見つけた。少し悔しいが、もちろん定価で購入しても何ら損だと思える代物ではない。五時から働いた者のもらう一デナリを見て、朝から働いた者がもっともらえると皮算用してはならない。それはそれでよいのだ。しかし今や、書店で見いだせない場合には、古書を扱う店もまた、探す価値のある場所である。そうやってでも、手に入れて失敗することのないガイドであると言っておきたい。




Takapan
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