本

『指点字ガイドブック』

ホンとの本

『指点字ガイドブック』
認定NPO法人東京盲ろう者友の会編著・福島智監修
読書工房
\1470
2011.12.

 指点字というものが広く知られるようになったのは、比較的最近のことではないかと思われる。そう言うと、私自身を基準としているみたいで恐縮だが、監修者である、福島智さんが表に出てきたことで、私もそういう世界を認識した。
 この本が提示している、数年前の調査においては、盲ろう者は日本国内に2万3000人ほどいるという。視覚が欠けるだけでも行動がとりにくい。聴覚の不足も危険が伴いコミュニケーションの上でたいへんな不便を負う。また、無理解故の困難も数知れない。私なんぞがとやかく言うことではないくらい、いやな思いを抱えて社会生活を営んでいるかもしれないと思う。だが、視覚がなくとも音が聞こえればコミュニケーションはしやすい。聴覚が聴者と同じでなくても、見えれば車の運転でも今はできるようになった。もしその両方の感覚が殆どないものだとしたら、どうだろう。
 私たちは、ヘレン・ケラーの話を知っている。あのように、比較的恵まれた環境で、教育を受けることができ、むしろ社会に対して多大な影響を与えることのできた人を通して、そうした立場の人を思うことができるにしても、これは実に特別なケースだと言わざるをえない。日本の2万人が皆ヘレン・ケラーであるわけではない。
 触覚情報しか入ってこない形で生活している。
 そこで、指点字が使われるようになった。いや、実際上、この福島さんの母親が考えたものが広まっていった、と言ったほうが適切であるようだ。その歴史は、誕生から30年程度でしかない。
 点字は、6点式が一般的で、空間的な6つの位置に、点があるかないかで信号を区別する。これを覚え触ることにより、盲ろう者も本を読むことはできる。だが、これではすべての情報を紙に打たなければコミュニケーションは果たせないし、第一目の前の出来事について何かを知ることさえできない。触手話というものも存在する。握った手の領域で手話を行い、情報を伝える。これは、手話をベースにした伝達方法である。
 だが、ここに、点字をベースにした方法が考えられた。伝達者が指で点字を瞬時に、盲ろう者の指に伝えるというのである。リズミカルに速く伝えられる。一度に多数の人に伝えることはできない欠点があるが、それを少しでも補う機器も生み出されている。
 とにかく、この本はそういう指点字についての理解を深め、指点字の方法や文法などを覚えるテキストとしても利用できるという、簡素だが、しっかりした本なのである。まだいろいろ模索中ではあるだろうと思うが、両手の絵を元に、初心者にも分かりやすく記されている。その気になれば、ひととおりの技術は身につくのではないだろうか。手話のように、単語そのものが増えていくというのでなく、これは点字であり、要素を覚えれば、いわばあらゆる文を伝えることが可能になるからだ。とくに、点字をご存じの方は、比較的スムーズに移行できるのではないかと思われる。
 私は手話に導かれた。しかし、以前から点字とも縁がある。こちらは実際使えないのだが、今はパソコンで点字変換のソフトもあるから、それを頼りに点字を打つことには吝かではない。ちょっと指点字にまでは手が出せない現状なのだが、必要があったり、またそこに何か導きを感じる方のためには、このガイドブックは今のところ唯一の、入手しやすい本ではないだろうかと思うので、私にできる限りのことで、こうして宣伝させて戴こうかと思った。
 何万人もの、閉ざされた生活の方々が開かれていくために、役立つことを願わないではおれない。




Takapan
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