『青少年のための小説入門』
久保寺健彦
集英社
\1650+
2018.8.
出会いは書店の棚だった。なんとなくタイトルに惹かれた。中古扱いで入手しやすかったのもあり、小説の書き方がストーリーに絡んでいるような紹介があったので、持ち帰ることにした。
表紙や帯から出てくる情報は、読み終わった後に初めてよく分かる。しかし読む前にはよく分からない。これは上手い宣伝方法だと思う。
さて、ストーリーについては明かさないという立場で小説を紹介することになるのだが、どこから紹介しようか。発端はよいだろうか。いや、書き出しは、ある意味で最後と繋がるので、緩やかに行こう。一応、回想のようなスタイルをとっているが、そこにはただの回想ではない仕掛けがある。
主人公は中学二年生の男の子。入江一真くんだ。弱気でいじめられやすい子だったが、あることをきっかけに、田口登さんと知り合う。登さんは、年上だがまだ若い。ヤクザを半殺しにしたなど、柄が悪いが、実に豊かなアイディアをもつ人だった。一真が文章を書けるということを知り、俺のアイディアを小説に書いてくれ、ということになる。
これは明かしてもよいと思うが、登さんは字が書けない。ディスレクシアのひとつの形である。だから文字の書ける一真と組むことになったのだ。いつか小説を応募して、作家としてデビューしよう。二人の目標ができる。
こうして二人の修行が始まる。そこでは、名作や流行作家の作品が取り上げられ、その小説の一部が現れる。二人してそれを鑑賞するのだが、方法は、一真が朗読するというスタイルしか取れない。登はただ聞きながら、非常に優れたツッコミを告げ、良い小説とはどういうものか、彼なりの批評が始まる。
最初私は、この物語が、小説を書くにはどうすればよいか、の指南書かと思っていた。タイトルが間違いなく、「小説入門」であるし、それだけ見ると実用書なのかと勘違いしても仕方がないような見かけである。だが、内容的にも、これは実地訓練的に、小説を書くとはどういうことであるのか、レクチャーするものとして受け止めるに値するものだった。二人して朗読と批評とを繰り返し、創作に入れば、登が語るプロットを書き留め、それを一真が文章化し、それをまた朗読して、登の修正を待つ。時には議論の中で、一真が出したアイディアが通るときもあるが、それも入賞するための小説として、登が納得した場合であった。
力関係としては、どう考えても登が強い。しかし、登は小説という作品のために、的確な判断をしているように描かれる。
二人の周りには危険なこともいろいろある。ヤクザまがいの人間である。トラブルからケンカ相手に重症を負わせるようなこともあった。それから中高生と成長してゆく一真ではあったが、未成年で酒を飲んでいるような場面も描かれる。暴力と酒ということで、教育上認められない作品舞台である。これは教科書に載せるのは難しいだろう。
また、クラスには、一度も投稿しない女子がいて、二年生に据え置かれたということが初めにちらりと紹介されるが、ここは私も何かあるのでは、と思っていたら、案の定、この女子はやがて大きな意味をもつようになる。
さあ、こうなると、二人の作品がデビューに至る、という道筋が当然期待されるであろう。だが、現実は厳しい。入賞には届かないことを経験して、二人はまた修行をし直してゆく。地域の図書館の人に一真が本を借りに行くときに相談するようなシーンもあり、案外これは、図書館司書としてはよい仕事をしてくれるものなのだということの宣伝になるかもしれない。相談にのってもらうということは、案外私たちはしないものだ。
期待通り、入賞を果たすが、これは二人でひとりというような役割を果たすコンビである。字が読めず、書けない登が原作で、未成年で学校の勉強よりも遥かに多い時間を執筆に費やす一真がライターとしてつくられた作品ができるのだ。良い担当者に助けられ、担当としての心構えをよく教えてもくれる。作品が生まれるからくりのようなものも描かれているのだと思う。出版会の裏側のようなものも、ここから知ることがてきるのではないか。
鼻につく批評家も現れる。複雑怪奇な人間関係は呼ばないので、その範囲内で、適切に人間が絡まりつつ、事態は展開してゆく。
とにかく、小説を書くとはどういうことなのか、リアルに伝わってくる。あれはこうしましょう、これはああしましょう、という式の、もったいぶった抽象的な「書き方講座」とは違う。二人して真剣をぶつけ合っているような、容赦のない作品へのこだわりや批評が飛び交う、命のこもった小説入門となっている。
私は、小説が長くなると、時折要点を見失うことがある。何か分からないことが混じってきて、クリアに視野が得られず、かろうじて結末まで導かれた、というような体験もよくある。だが、本作品にはそれがなかった。細かなところまで、かなりクリアに響き渡る中で、最後まで到達した。だいたい最後はこうなるのか、というような予感もだんだんしてきたし、行ってみれば最大のオチも、心の中で思い描いていたものであると言ってもよかったが、それは落胆させるものではなかった。むしろ爽やかだった。そして、そこへ至る後半にも、予想を裏切る展開は十分にあり、ハラハラさせられることも多々あった。決して、丸く収まるようなストーリーではない。
小説の作り方、という学びに使うには、あまりに物語に染まったものであるだけなのかもしれないが、その方面も関心がある読者ならば、なかなか楽しめるのではないだろうか。
作者についてはこれまで知ることがなかったが、少し調べてみると、この作品の中の人物と、共通する設定もあるように思えた。実話ではないのだろうが、何かリアルさを伝えるものが、ここにあったような気がしてならない。

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