本

『読む聖書事典』

ホンとの本

『読む聖書事典』
山形孝夫
ちくま学芸文庫
\1200+
2015.12.

 事典である。辞典だと言ってもよかろうが、内実では、短いながらも詳細な検討を知らせてくれる。手軽に持ち運ぶことができるので、聖書や讃美歌などと一緒に、教会に持っていくセットに含めては如何だろうか、というのが私の印象である。礼拝中に開くチャンスがあるのかどうかは教会によりけりであろうが、もし可能ならば、説教の最中に分かりにくいと思われたら、あるいは知らないけど何だったかと思われたら、調べられると思うのだ。辞書としては文字が通常の文庫版なので大きく読みやすいし、記述自体もあまり詳しくならないように配慮してある。パッと見て内容を捉えるという意味では、適切な量と質の解説ではないかというのが私の感想である。
 もちろん、これは編集委員の作というよりも、個人のものである。著者には一種独特の聖書理解があり、とくに癒しを契機としてイエスの振る舞いに関して特徴があるように見え、解説にもそういう部分が影響が出ているという点はある。ただ、あまりに極端な意見を押しつけようとするようなことは本書にはないし、さしあたり無難な説明となっていると受けとめてよいのではないだろうか。
 図版も多い。関連の他の聖書箇所も、著者の感覚に基づくのではあるが、触れてある。その内容が読みやすいのは、そもそも岩波ジュニア新書『聖書小事典』の改訂版であるという故であるかもしれない。その意味では、この「ジュニア」はレベルが高かったとむしろ言えるかもしれないし、またそういう意識でまとめられたものであるために、解説がより適切な範囲に収まっていると言えるのかもしれない。また、ジュニア新書だと、そこそこの厚さになっていくのだが、文庫にすると非常にコンパクトである。その意味でも、文庫版の情報量の優れている点を改めて知るような思いがする。
 ところでジュニア新書というからには、これは必ずしも信徒のためのものではない。教養として、一般的に聖書を知りたいと思ったときや、何か調べたいと思ったとき、役立つというものであろう。また、たとえば世界史を理解するのに聖書の言葉の意味を知りたいというときもあるだろう。もちろん、国語辞典でも定義的な意味は分かるだろう。しかし、歴史を背負い、ときに戦争を起こし、政権が変わり、国の存亡に関わったとなると、聖書の言葉は、国語辞典的な意味で知ってそれで通りすぎることはできない、と思う中高生は当然いるはずである。著者は、そこまで踏まえて、綴っている。最初にそのような姿勢で記されたものであるだけに、やはり一般書として出したときにも、分かりやすく公平なものとして目に映るものと思われる。毒のある面白みはないかもしれないが、きわめて有用である。
 名画の理解にも役立つ情報があるし、外典に関わる内容も踏まえられているために、西洋文化や歴史に対する理解も深まる。その意味では、「聖書」と単純に言えないところもあるが、聖書文化の解説として、より適切なものとなっているように見える。ちくま学芸文庫ということで、若干割高に感じるところだけが、ネックであろうか。




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