本

『読み上手 書き上手』

ホンとの本

『読み上手 書き上手』
齋藤孝
ちくまプリマー新書076
\798
2008.2

 程よく振り仮名も打ってあり、中学生でも十分読める。小学生でも、可能な子はたくさんいるだろうと思うが、一応中高生に適当であるとしておこう。
 読みやすく、軽快に文章が進む。教育専門でありつつ、様々なメディアで活躍している著者である。適切な比喩や実例を通して、分かりやすく案内していく、この「書く」という世界。中高生だけの特権にするのはもったいない。おとなにとっても役立つし、また、どのように子どもに教えていけばよいのかの好例と目に映る。
 この新書から確実に伝わってくるのは、書くことが如何に大切であるか、ということ。読むのは好きだが書くのはどうも……という言い訳を、著者は看過しない。それは、実のところ読めていないのだ、と断言する。自分勝手に読んだところで、生産的なことはできない。少なくとも、社会では、書く力が評価され、それで仕事ができるかどうか判断されることが多いのだという現実を突きつける。ただの機械の一部となって働くだけでよいのならまた別なのかもしれないが。
 もちろん、書くことにはある程度の慣れも必要になる。しかし、一定の訓練をすれば、誰でも書く力は養えるはずだ。書けるということは、また考えることができる、ということと等置されるかもしれない。
 この本の美味しいところだが、大学受験問題などを実例として、実際に書くときにどんなことを書けばよいのか、どんなふうに書けばよいのか、をコーチしてくれている。素直に従った意見ではつまらない。元の意見を聞き入れず自分の主張ばかりするのは幼すぎる。読んで理解したことをさりげなく示しつつ、観点を少しずらした自分の視座を表現できたらなかなかよい。あるいは、元の意見と対立意見とを止揚した第三の立場の考えを提示できたら、これまた素晴らしい。こうした内容を、例と共に説明してくれているのだ。
 メモをつくってから文章作成に入ることなど、当然のことも、初心者に伝わるように分かりやすく示してある。内容的には、高校生くらいでないと消化できないところがあるだろうと思うが、それにしては説明があまりにも丁寧すぎるくらいだ。いや、今日ではこれくらいでないと、高校生は読んでくれない、あるいは読む能力がないのかもしれない。
 終わりのほうでは、例題がたくさん出される。私も楽しめた。そして、私自身が独自に得てきた、書くコツあるいは書き方という哲学は、決して間違っていたのではないのだろう、というふうにも思えた。
 などと、私が感想を書いてはいるものの、著者から見れば、批評でも感想でもない中途半端な文章で、何を言いたいのかちっとも伝わっていない、と酷評されそうな予感がする。ちゃんと新たな視座を提供せよ、などと。
 これはどうやら、一種のパラドクスの世界にずれて入っていってしまったようだ。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります