本

『イラストでわかる やさしい哲学』

ホンとの本

『イラストでわかる やさしい哲学』
坂井昭宏・宇都宮輝夫
成美堂出版
\1260
2007.3

 北海道の哲学者の息吹が伝わってくる。冷静に淡々と伝える中にも、篤い思いがそこに感じられる。
 哲学を時代順に並べる普通のスタイルではあるが、時代によりテーマを大きくまとめ、把握させ、それから各論に移るなど、工夫が凝らされている。必ずしも一人に見開きというふうにこだわらず、重要な思想家には数頁が割いてある。それでいて、見開きの中でひとつのまとまりを作るなど、見易いように構成されている。
 イラストがまたいい。短い説明とともに、視覚的にも理解を助ける。
 それでいて、ともすればギリシア哲学を詳しく述べすぎて、近代に入ったあたりで息切れするような説明と異なり、重きは現代哲学にちゃんととっておいている点も、見逃せない。今私たちが問題にしなければならないことは何か。それはどのような伝統と反省の中で生まれた問いなのだろうか。その問いは、過去の失敗をうまく乗りこえて立てられているのだろうか。そんなことを、読みながら感じていくことができるようになっている。
 物事を真剣に考えたいという人のニーズに応えるために、この手の入門書が最近多く出ている。その中でも、これは有用な本として紹介してよいのではないだろうか。
 冒頭の「はじめに」で、日本の学校教育で哲学が扱われていないという現状を真正面から伝えている。そして哲学の紹介をする書が、大学初級あたりに限定されていること、それゆえに基本的知識を多く必要とする書き方に揃っている点などが指摘されている。こうした教育的配慮をするということ自体、哲学を本気で人々が必要だと口にするような人々の本にも、欠けていたのではないだろうか。
 日常的な言葉で、どこまで哲学史を、いや、哲学すること、つまり知を愛することを、どこまで伝えていけるか。この本は、そんな挑戦であったのかもしれない。もっと優しい切なる願いからだ、と著者たちは言うかもしれないけれども。
 なお、私がよくないと苦言を呈する、「索引」が、この本にはある。ある意味で当然なのかもしれないが、こうした配慮が、本気を感じさせる風をもたらしてくれている。




Takapan
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