本

『戦艦大和全写真』

ホンとの本

『戦艦大和全写真』
原勝洋編
潮書房光人新社
\2500+
2023.4.

 空前絶後の機密保持のもと建造されたという戦艦「大和」は多くの日本人の興味の対象であった。そして、世界最大の艦載砲46cm砲を搭載する「大和」は、日本人の誇りでもあった。戦う「大和」の姿は、勇敢な米軍の撮影によってその全貌が明らかになった。そしていま、その全てをここに見ることができる。「大和」よ、永遠なれ! ――原勝洋
 巻末に掲げられた「写真集の刊行にあたって」の全文である。なんたが「宇宙戦艦ヤマト」を思い起こしそうな最後の言葉であるが、それほどにあのアニメは、戦争を知らない世代の心に大きな影響を与えたのかもしれない。
 ひたすらすべてが写真であり、写真の片隅に小さく解説の文字か付けられているだけの本である。比較的小さなサイズだが、ずっしりと重いのは、紙質のせいである。価格に見合う内容ではあると思う。
 ただ、本書が掲げる「全写真」という意味がどういうことであるのか、実は全く書かれていない。最初のご紹介した巻末の言葉だけが、著者による説明めいた唯一の文章である。普通ならば、この写真はどのように入手したかとか、どのような意味があるとか、何かしら写真の背後にある事情を説明するところであろうが、どこにも全くない。だから「全」ということの意味を知りたいと思ったのだが、確かに一つひとつの写真へのコメントには、アメリカ軍の写真だとか、誰それの写真をお借りしたとかいうようなことが分かるものもあるにしても、それすらよく分からないもの、つまりその写真の戦局を述べただけのものも少なくない。
 ネット販売の書店は、その点読者からの声が集まるもので、中には、「他にも写真がある」という指摘もあった。しかも、具体的にどのような写真であるか、きちんと資料として示しているような書き込みもあって、信憑性がある。となると、本書の写真は、とりあえず編者が集めた写真の「全て」ということなのであろう。とにかく戦艦に関するあらゆる写真を網羅した、とまでは言えないようである。
 しかし、だとしてもなかなかのものである。戦艦大和自体、秘密裏に建造されたらしく、機密性の高いもので、設計図なども焼却された経緯があるという。幾つかの戦いに出た後、最後は沖縄上陸の米軍に対するために沖縄に向けて出航したが、その途中で撃沈された。
 本書には、その大和の撃沈の有様も、アメリカ軍からの撮影から明らかとなっている。また、「大和」だけでなく「武蔵」についてもいくつかの写真があり、日本軍の戦艦についてのひとつの大きな資料となっているものと考えられる。
 まず初めにあるのが、大和の最期である。その後、誕生してから戦いを続けていく順序に戻る形になっている。そこのところを理解していないと、少し戸惑う構成ではあるが、本を開くといきなりショッキングな写真が連続することになるため、インパクトは大きいと思われる。
 もちろん戦闘シーンばかりではない。お偉方の記念写真や天皇を含む記念写真も掲載されている。艦内でくつろぐ兵隊たちの姿も一部ある。但し、これらは皆「武蔵」である。「大和」についてはやはり機密であったのだ。これの資料が出て来たら、当時の日本のレベルというものが、より明らかにされることかと思うが、どうにも分からないようだ。
 当時の「戦争」というのは、こうしたものであった。その後の「核」の時代となって、様変わりはしたであろうし、「戦争」という言葉のもつ意義もまた、変化しているはずである。だが、本書発行のときには、ウクライナにロシアが攻撃を仕掛けた戦争が続いていた。海と陸との違いはあれど、決して全く異なるのではない現実の怖さというものを感じるべきであろう。一応こちらは軍人同士の戦いである。一般市民がそこにいるわけではない。その後の「戦争」は、市民が巻き添えになっていくことが多い。それでは軍人同士ならばよいのか。戦争は必要なのか。どうして戦争をしなければならないのか。
 私たちが問い直すためにこれらの写真が提供されるのなら、結構なことだ。だが、戦争映画がしばしば「かっこよく」見えるように、妙な憧れのようなものを生むのだとしたら、残念である。戦闘で死ぬのが「かっこよく」見えるかもしれないが、戦争となると、そのような死に方をする兵隊はごく一部であるという。病死と餓死という事実を、私たちは知る必要がある。写真集には、それは垣間見えない。ひところ、写真週刊誌というものが流行ったが、ひとつの写真は、事実とは異なる印象を読者に提供することがある。そのことだけは、私たちは弁えておかなければならないはずである。




Takapan
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