本

『日本の夜景絶景spot50』

ホンとの本

『日本の夜景絶景spot50』
渋川育由
河出書房新社
\1470
2010.11.

 開いてみて、感動する。
 説明する、言葉もない。
 こうしたシリーズが、たくさん出ているらしい。「絶景」「明景」シリーズとされている。今回手に取ったのは、夜景である。
 夜景というと、どうしても、街の灯りがイメージされる。大都会の夜は、それぞれの家や店に明かりが灯るそれだけで、美しい風景になるという具合だ。しかし、私個人は、自然の美しさに勝る美しさはないと思うから、どうせ大都市の人工的な夜景ばかりの写真ではないか、と思っていた。が、開いてみると、自然そのものの夜景も多い。また、自然をライトアップさせたものも、嫌みなく見ることができた。
 というより、そのような思いこみすら吹き飛ばしてしまうほど、写真が美しいのである。
 もちろん、写真自体のテクニックもある。暗い中で光を撮影するには、露出を長くするといった苦労が必要であるし、余計な歩行者や車などが映り込まないように、チャンスを待ったり、そのように事前工作したりしなければならない。
 しかし、何よりも対象である。
 いろいろ、有名なところ、耳に聞くところというのがある。それは、地元の宣伝効果による場合もある。しかしこの本は、知れ渡っているその名前によって掲載を決めているわけではなさそうだ。様々な場所から撮影した写真の中から、写真として美しいものを、ある程度地域のバランスも考えて選んだのであるように思われる。無名のもの、知る人ぞ知るというものなどを含めて多くの名所を知る機会となるし、他方、よく聞くものが必ずしもあるわけではないものの、いやこのほうがいいではないか、と思わせるだけのものを十分もっているといえる。
 寡黙なのもいい。
 それぞれの場所について、その都道府県の形と該当個所の赤い丸印があり、その横に判で押したように7行のコメントがあるだけで、この本には、「はじめに」も「編集後記」も何もない。表紙を開いたときに、カバーの裏に、「旅は一枚の風景からはじまる」というコピーがあるだけである。ほんとうに、ほかにはない。
 ただこれらの写真を見よ。
 そう言っているようにもうかがえる。
 そして、それだけの価値がある。
 カバーの裏側の内側に、「人生を豊かにする一冊!」として、他のシリーズのラインナップが宣伝されているくらいはいいだろう。本誌ではないのだから。しかし、そのキャッチフレーズが、実に効いている。この一冊、しかも比較的安価である。この写真を見ると、言葉もなく、理屈もなく、その通りに、人生が豊かになるように思えてくる。
 まことに、目の保養であった。




Takapan
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