本

『ワンダフル・プラネット!』

ホンとの本

『ワンダフル・プラネット!』
野口聡一
集英社インターナショナル
\999
2010.11.

 野口聡一さんは、「ツィート&メッセージ」という肩書きで表紙に記してある。これらの写真は、ツイッターで、リアルタイムに地球へ送られた画像なのだ。
 そう。この情報の発信者は、JAXAの宇宙飛行士。国際宇宙ステーションにて、163日間にわたり滞在して、ミッションを遂行した人である。そこから地球を撮影した写真を、送っていたというのである。
 地球の写真をそこから撮影すること自体は、かつてももちろんあったとのこと。だが、それを直ちに送信することが簡単にできるというシステムは、かつてなかったかもしれないし、また公開する方法が一般的にはなかった。それが今この時代である。ほかの誰一人として送ることのできないソースである。貴重な画像は、人々の目にとまり、受け容れられた。
 さらに、一言短いコメントが付けられている。これがまた、粋なのである。「星たちがオーロラと恋に落ちた」「ウクライナ。キュービズムの絵?」「今から83年前、リンドバーグはこの街の灯を『スピリット・オブ・セントルイス号』から見たのです」など、グッとくる一言が付されていることがある。もちろん、たんに都市名や地名を挙げただけ、ということも多いのだが、やはりあくまでも主役は写真のほうであろう。何の説明も要らない、と言えば嘘になるから、こうして一言でも案内があることで、「なるほど」とか「へぇ」とかまた唸ってしまうのである。
 こればかりは、腕のいいカメラマンでも、撮影できない特殊な環境であることは言うまでもない。だから、精一杯私たちも味わわせてもらおう。このリンドバーグのコメントは、パリの夜景でした。宇宙の星雲写真のように、闇に広がる灯りが美しい。その右の頁には、よりシャープに、モスクワの街の灯が映されているが、こちらは道路に沿って街灯が並んでいるために、著者が形容しているように、まさに「黄金のリング」となっているのが分かる。道路が蜘蛛の巣のように張り巡らされているのがはっきり分かるのである。
 地上にいれば、地上の眼差しでしか捉えるものがない。ニューヨークに夢叶って一つの店を開いた人、そこにどでかいビルを所有している大富豪も、宇宙から見たマンハッタンの中の、どこにそれが見えるというのか。空から見れば、地上での私たちの諍いが、いかに小さなものであることか。
 宇宙飛行士が地球全体を見るとき、人生観が変わるなどとも言われるが、もう少し近いレベルで、ステーションで地球を何千回も回る中で見下ろす都市や世界の大自然の姿は、よりリアルに人の社会や環境を捉える。たんに宇宙レベルで地球は小さいなどと言うよりも、もう少し等身大に、地球というものを愛おしく感じさせるものがある。そんな気がする。
 ナスカの地上絵は宇宙から見る視点で描かれたのではないか、と言われることがあるが、この距離が眺めても、なかなかそれと認識できるものではない。とてもとても、宇宙から見えるなどというものではないのだ。地上に住む人間が、精一杯空からの視点で記した図柄に違いない、と私は思った。つまりは、大したことはないのである。
 人は神について思い、神はこうだなどと分かったようなことを口にすることが多い。だが、それはとんでもない思い上がりであり、風車に突撃した騎士どころではない、意味のない暴挙でしかないことがしみじみ分かる。
 ワンダフル。それは、たんに素晴らしいという意味だけではない。ワンダーという、不思議さ、神秘さを内に含む感動である。センス・オブ・ワンダーの大切さが子ども向けのメッセージにも語られ、入試の国語の文章にも時々現れるのであるが、こうした素晴らしい写真や映像がもたらす恵みを感謝して、マクロな世界に、あるいはまたミクロな世界に、いろいろ触れてみたらいいと思う。それは疑似体験に過ぎないにしても、私たちに確実に、別に視点を与えてくれる。自己の深淵に沈むことも現代人は足りないと思うが、自己から出て行くことも余りにも足りていないのではないか。別の視点。これは、私の願う重要なカギになる考え方である。




Takapan
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