本

『「若者」と歩む教会の希望』

ホンとの本

『「若者」と歩む教会の希望』
原敬子・角田佑一編著
日本キリスト教団出版局
\1800+
2019.2.

 付されている副題のようなところがなかなか詳しい。「次世代に福音を伝えるために」とある横にさらに「2018年上智大学神学部 夏期神学講習会講演集」と並んでいる。若者をテーマとする世界代表司教会議が2018年秋に開かれ、その関係で上智大学でもこのテーマで、各方面からの講演者が語り、シンポジウムを行ったことで、その記録という形での出版である。これだけの声が揃うとなると、ずいぶん大がかりなものであったと言えようし、なかなかの本となるほどであるから、内容も充実していたものと思われる。
 プロテスタントだけの議論には出て来ない内容も当然あるし、カトリックの組織的な考え方や仕組みも当然あるだろう。しかし、そんなに違和感なく、ほぼ読むことができたと思う。精神医学の観点から、またイエス自身を若者として見つめる視点のものもあり、多様な議論で楽しめたというところだ。ペルソナ概念など、プロテスタントではめったに出て来ない考え方などに触れ、少し懐かしいというか、神学の大きな世界を垣間見るような思いがした。
 「学びほぐす」という考えを教えてもらったのはよかった。学びほぐすとは、「ある思想体系に間違いが見られたからといって、これをそっくりそのまま廃棄するのでなく、誤りに対する共感をくぐりながら私たちの必要に合わせて元の思想を再編成する働きを指す語」なのだという。ある概念について別の言い換えを試みたり、別の言葉で編み直すという態度は、分かり切ったふりをしている、あるいは当たり前だと思い込んでいたことから解放されるためのひとつの大切な道筋ではないかと思う。考えてみれば、これは私が日常自然とやっていることでもある。子どもたちに話すときももちろんそうだ。語彙を変えるというよりも、むしろできるだけ通り一遍の説明を繰り返すばかりにするのでなく、自分なりに噛み砕いた言葉で、相手との共有の場を設けようとするわけである。
 難しい言葉でしか説明できないことは、実は理解ができていない。これはほぼ常識となっているテーゼである。内容を十分理解している人は、優しい言葉で、相手に届くように言い換えて説明することができる。私がカトリックに疎いので、そちらの常識に親しむことができないために、論じている内容がどうも響いてこないというものもあるにはあったが、概ね楽しい本だった。プロテスタントだったらどうするだろう。恐らく神学の議論は出て来ないと思う。それぞれの教会での体験談を出し合い、実情の紹介と方法論を検討した後、では祈りましょう、あたりで終わるのではないだろうか。真っ向から、神学の用語を表に出して説き始めるというのはなかなか威力がある。
 最後のシンポジウムの記録は、本書に並べられていたものをいま一度振り返るばかりでなく、その議論の背後にある気持ちや質問と交流があり、これも読み応えがあった。勉強になった、と言うべきだろうか。
 しかし一番の収穫は、塩谷直也さんの文章に触れたことだった。プロテスタントの方なのだが、ルターをも持ち出しつつ、「歌は語らなければならない」というあたりから、「説教は歌わなければならない」と提示する。逆説めいた言い方に聞こえるが、それがどんなふうに展開していくのか、それはいまここですべて明らかにすることはできないが、少し追いかけてみよう。そこに愛する気持ちがあるのが必定であるが、若者からの視点や立場を知ろうとする姿勢が強く感じられるものだった。「学生たちは合いについての説明が聞きたいのではないのです。そうではなく、愛せない私、愛したけれど裏切られた経験、愛されたけれど相手を見捨てた経験、それを共有したいのです。」そして、大学で教えたときに自分が実践したことを紹介し、学生が自分の問題意識をテーマにしてよいように勇気づけられるプロセスを教えてくれる。「あなたに会うのを楽しみにしていました」というメッセージ、それが若者の心に響く。自分が特別だと認められることの必要性、別の道があることを信じて逃げろという叫びが響いてくる。逃げてよい。逃げても、神がそこにいるからだ。逃げ場が必要なのだ。これを教育することが必要だと訴える。イエスのリアルな救いの姿が生き生きとそこには描かれていて、感動を呼ぶ。そして、愛されたという経験がひとを生かすこと、自分の人生を世界に献げるということへ流れて、この提言は終わる。
 よい人と出会えたと思いう。早速、この人の著書を注文した。若い世代のために荷を担い、実践する。たいていはそのどちらかしかできないものだ。若者を生かすというと傲慢に聞こえるかもしれないが、大切に扱うことの意味について、新たな地平が見えてくるような気がした。




Takapan
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