本

『ワイン生活』

ホンとの本

『ワイン生活』
田崎真也
新潮文庫
\420
2009.6

 十年以上前に新潮選書として出版されたものの文庫化。内容は若干リニューアルされている。「楽しく飲むための200のヒント」というサブタイトルがある。
 有名なソムリエの著者が、一般の人にもかなり分かりやすいように、Q&A形式でワインの楽しみ方を紹介している。とはいえ、専門用語を殊更に解説しようという意図はないし、図解で示そうというものでもない。ひたすら文面で等々と続けるスタイルを貫いたのは見事と言えるかもしれない。ただただ言葉で質問に対する答えを提示していく。そのシンプルさが、却ってうるさくなくていいし、著者がまるでラジオで答えているかのような、向かい合った感覚がある。つまり、こちらが質問したことに、なんとか理解してもらおうと答えている回答者の姿がそこにあるように感じられるのだ。
 内容はシビアである。ワインを今日初めて手にした人が分かるようなものではない。だが、少しばかりたしなんだ人や、これからたしなんでいこうとする人にとっては、興味津々の内容ばかりである。いや、たとえ飲まない人にとっても、ワインについて根本的に誤解していたようなことが、この場で正されるような気がしてならない。
 どういう店がよいか、どうしてワインはそうなのか、ひとつひとつ理由を説明しながら答えていく。その真摯な態度が、私には好感的であった。マスコミの煽りとは違うところに立っている著者が、美味しく楽しむことを念頭に、相応しいのはどういうことか、何を知っていると楽しくなるか、そんなところを狙って答えをつくる。そこには、専門家であるにも拘わらず、衒いがない。要するに個人が楽しめばよいのではないか、足りないところを嘆くのではなく、新たなものを得たことを喜びつつ、ワインと料理を楽しんだらよいのではないか、という基本線で話を展開する。それがまたいい。
 特に、赤と白に合わせる料理についての解説は、目からウロコが落ちるような気がした。もともと私がワインについて知らなさすぎたというのもあるだろうが、なるほどそうなんだというふうに思ったし、私が断然赤が舌に合うのも、まさにその理由からだったのだということがよく分かった。
 ワインの銘柄についての蘊蓄はない。価格を云々議論する暇もない。ただ、ワインというものを使って楽しもうではないか、そのためにこれくらいのことを知っておいたら、というツボがここに押さえられているように感じた。
 手軽に読める文庫である。写真も図解もないが、読めば読むほど味の出る、味わい深い本であることは間違いない。
 ワインは、聖書にもふんだんに登場する。当時はもっと酸っぱかったのではないかと言われるし、強い酒というのはビールではないかと考えられている。ただ赤いワインは、キリストの血の色になぞらえて、驚くことにこれがいまだに教会で聖餐式において伝えられ続けられているというのだから、事はそう単純ではない。
 ワインとパンは、キリストの血と体であった。日本であれば、日本酒と米だろうか。こうした主食が、宗教には必ず中心についてまわる。日本酒も美しいものだが、ワインもまたいい。せめて、殊更に不味くするようなことはしないで、楽しみたいものだ。そんなときに、この本は強いバックボーンとなるはずである。




Takapan
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