本

『おうち飲みワインレッスン』

ホンとの本

『おうち飲みワインレッスン』
竹内香奈子
KKベストセラーズ
\1229+
2014.4.

 ワインというと、気取った雰囲気をイメージするかもしれない。だが、本来それは素朴な飲み物であって、ただひたすらブドウを発酵させるだけでできた飲み物である。当然アルコールは入るが、添加物は一切要らないのが基本だ。旧約聖書ではノアがこれで酔っ払ったという記事があるほどて、中東において古代から基本的な飲み物の代表格であったことが分かる。カナの結婚式で水をワインに変えたというイエスの最初の奇蹟も有名である。もちん、最後の晩餐にまつわるワインは、イエスの血を表し、これが実体化するとかしないとかいうことはともかくとして、聖餐式というキリスト教の伝統的な儀式の一つとなり、二千年来途絶えず伝えられ、実行されているというのであるから、ブドウ酒に関しては人類の命運がかかっていると言っても過言ではないほどの重要性を担う飲み物だと見なされている。
 近年、その健康作用にも注目が集まっている。そこへ、おしゃれ感覚も加わるとなると、ますます人気が出る。しかし、そのマナーというものがあるだろうという懸念と、実際料理にどう合わせればよいのか、また、そもそも種類ごとの特徴などについて、知識が乏しいというのが庶民の実情である。
 ワインの入門書も数多い。だが、著者としては自分の知識の何もかもをそこに入れ込もうとして、結局、「ワインを知る人が読めばよく分かるが、知らない人が読んでも何も分からない」という、世の「入門書」にありがちな轍を踏むことになる場合がしばしばである。
 著者は、若い女性ソムリエ。特別ワインの才能があり恵まれた環境の中で鍛えられたというようなところはなさそうだ。たとえばどんな女性も、もしかしたら自分もなれるかも、と思わせるような雰囲気をもっている。そして、その女性のためのワインの飲み方・選び方ということを大切にしようという気持ちが、この本から伝わってくる。その意味で、私が手にとったのは間違いだったかもしれない。つまり、この本はワインを知りたい女子のために相応しい一冊だったのである。
 私がこの本に惹かれたのは、実は表紙の写真だった。私が使わないタイプのワイングラスの写真だ。底が平たい。これと似たものを、妻からプレゼントされていたので、珍しいと思っていたが、それがワインの本の表紙にデン、と載っている。普通ワイン入門となると、ノーマルなグラスが出ているはずではないか。それが、おしゃれな、そして従来ワインには不向きではないかとも目されているような形状のグラス。奇をてらったわけではないと思うが、この写真が実は効いている。
 著者自身後で述べているが、専門用語を振り回すようなことなく、初めてワインを飲んでみよう、選ぼう、と思った若い女性が、どんなことを知っていればよいか、その人の気持ちにできるだけ寄り添った形で、隣でささやくような調子で説明が加えられていく。そのうちに、よく聞く言葉の意味も理解されていく。なかなか教育上手なところがある。嫌味もなく、へつらうこともなく、淡々と、お友だちのように語っていく。著者の人柄なのだろうか。
 私は基本的なことはそこそこ知っているつもりだったが、それでも、こんなに単純にさわやかに述べられていくと、見ていて気持ちがよいし、そういう理解でよかったのか、と目を開かされるような思いも幾度も抱いた。
 型にはまることなく、和食にもどのように合わせていくことが適しているか、ヒントを呈している。しきたりを大切にしながらも、自由な楽しみ方を提案しているようで、この感覚は今風で、それでいてどこか正統的で、好ましいように感じた。
 さらに、「おうち飲み」とは言いながらも、そこはソムリエらしく、店での楽しみ方について具体的なノウハウがふんだんに教えられているのがまたいい。ボトルの持ち方やソムリエに頼むべきことの範囲、男性にどう委ねるかのテクニックに、こぼした時の対処法など、並のワイン入門書では気づかない、ソフトな面が多々語られていて、非常に実際的である。
 これはいい。ワインの飲み比べで舌を肥やそうなどという思惑はどこにもない。香りを楽しむテクニックなどにやたら走ることもない。値段によらず良い物がいろいろあり、自分に合うものが見つかるといい、という、まさに「おうち飲み」の王道を進むような寄り添い方である。
 私自身は、日本酒の奥深さと比べて、ワインはどこか平坦な味わいにとどまるような偏見をもっていて、価格としても日本酒に比べて高すぎる印象がある。だが、近年の日本産のワインの品質の良さはよく分かるし、香りが千差万別であることも感じることができる。料理と一緒が理想なのだろうが、私はワインそのものを楽しむタイプである。そのうえ、実に偏った飲み方しか知らず、自分に合うのはイタリア物だという思い込みも激しい。だから非常に自己流でしかないのであるが、それでも、チリも悪くないのだとか、料理との相性はこんなにもバリエーションがあるのだとか、たくさんのことを教えて戴いた。楽しみを増やしてもらえたことで、この本との出会いをうれしく思っている。




Takapan
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