本

『ワインの自由』

ホンとの本

『ワインの自由』
堀賢一
集英社
\1470
1998.10

 初版が10年前でありながら、2007年にまた版を重ねているので、それなりに読み継がれている本ではないかと思う。ワインがブームになることが幾度もあり、その都度ワイン本が作られ、売れていく。だが、そうしたファッション的なものを超えて、ワインとはそもそも何であり、何によって流通していくのか、その見極めはどういうことか、知りたいと思うのが、本当のワイン愛好家である、とするならば、この本は常に需要があるということになるだろう。
 それほどに、ワインを生み出す側のあらゆる側面をえぐっている。ワインが売られている背景を、ズバリ説き明かしてれる。なぜ価格に大いなる違いがあるのか。ワインのもつ名前はどういう意味があるのか。小さなことから、相当なワイン通でなければ理解できないことまで、次々と畳みかけられるようにして明かされる。
 私もワインの愛好家の一人である。何よりもキリスト自らワインを勧めた。もちろん酔っぱらいためではない。それは、色合いもさることながら、キリストの血であったのだ。このワインの、製造過程を説明する本ではないのであるが、どのようにして商品が生産されていくのか、どう選んだらよいのか、選ぶ基準は何であるのか、そうした愛好家の立場を大切にしながら、ワインについての蘊蓄を紹介していく。著者は、ワインについてのいわばプロであり、その知識や願いを活かして、ワインについてのマンガを世に生み出すこともしている。
 テレビ番組で、100万のムートンと、市販の5000円のワインとを区別できるかどうか、ということを芸能人にさせて、本物とまがい物とを見分けられるかどうか楽しんでいるものがあった。私はある意味で立腹した。私は、5000円のワインなんて飲んだことがない。しかし番組では、さもまずそうに「こっちが5000円」と払っているような様子がみられたのである。
 こうした価格はどのように決められているのか。この本では、そうした問題も明らかにされていく。そして、それはかなりの部分で名前により決められているという点を示し、テーブルワインの表示でもすばらしいものがありうることや、投機の対象になっている名門ワインの現状を憂うようなことが、語られていくのであった。
 実際にワインを飲むときにグラスをどう持つか、といったことを伝えてくれる本ではない。しかし、手元のそのワインの色の奥に、どんな思いが隠されているのか、そんなことわよく教えてくれるのは確かである。ワインに関心のある方は、ぜひ一度目を通して戴きたいものである。ノウハウはないが、真実深い理解を得られることだろう。それがまさにワインを愛する、ということであるはずである。




Takapan
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